■この度の大震災に被災された全ての方に、わたしが掛けられる
言葉は、一文字もみつかりません。ただ、生きているというこ
とが、実は奇跡なのだと感じてしまいました。
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■文化財マネジャー受講記録(5)
第5回目の受講記録備忘録である。
今回は、午前中に「寺社建築」の講義。午後からは、やや実務
的な講義「瓦」と「左官」について。それぞれ文化財補修を直
接手掛けられている職人さんによるものだった。
「瓦」も「左官」も一昔前までは、当たり前のように住宅にも
使われていた材料であり、工法である。しかし、現在では本物
を使うことは数少なく、故にお二人のお仕事も昔に比べると極
端に減ってしまっている。とのことだった。
確かに、新建材が主流となっている昨今なので、こればかりは
如何ともし難い。時代/意識が変わらない限りにおいては。
何が原因か。
一つには「時間/手間」の問題。そしてもう一つには「コスト」
の問題が孕んでいるんだと思う。
瓦は今や機械化が進み、昔ほど手間を掛けずに一定の精度を持
った製品が流通するようになった。なので、上述の2つの問題
はほぼ解消されているのだが、時代の流れと共に瓦を使う建物
自体が少なくなってしまった。
一方、左官。勿論今でも左官仕上げとするものは多い。ただ、
本格的な竹小舞(たけこまい)を組んで、土壁の下地を塗って、
左官の仕上げをするということは、もの凄く稀である。
手間も掛かるし、コストも掛かるのである。というか、手間が
掛かるから、コストが掛かるのである。
そもそも竹小舞などを見たことのある若い方なんていないので
はないだろうか。竹を組んで、土塗りをするための下地にする
というものなのだが、昔の町家は全てがコレだったはずである。
今では、木軸の下地にプラスターボード(石膏ボード)を貼っ
て、仕上げるのが主流。手間も時間もコストも掛からない。
今となっては、土壁は余程厚みを厚くしない限り断熱性能もあ
まり良くないので、採用する人が少なくても仕方がないのかな
とも思う。そもそも今では竹を組む職人さんを探すのが大変だ
と思う。
そんな竹小舞。使うことがないかもしれないが、文化財を現在
のやり方で補修するわけには行かないので、一応注意点を書い
ておく。使う竹の選別を注意しなければならないとのこと。竹
は虫がつきやすい。なので、一般的には虫のつかない季節に切
った竹を使う。防虫材仕様の竹もあるのだが、10年もすれば
パリパリに割れてしまい、強度は皆無になるそうなので、絶対
に使用しないこと。
で、左官職人さんが聞いた話しによると、切る時期を誤った竹
を使った家で、夜になると「ザワザワ~」という音が家中に響
き渡ったそうだ。壁をめくると、竹についた虫が竹を食べる音
だと判明したそうだ。そんな話しを聞かされたコチラの背中が
「ザワザワ~」である。
読んでる貴方も「ザワザワ~」だと思う。
そんな「ザワザワ~」な感じにならないためにも、材料の吟味
が大切なのである。
まあ、下地で使う土も、京都では山から削り取ってくるところ
から始まるので、スタート地点から手間が掛かりそうだ。とい
う想像はつかれることと思う。藁を混ぜて(藁にも種類が色々
ある。なので、その材料の吟味も大切。土と相性の良い藁。)
土を寝かせて。また藁を加えて。混ぜて。寝かせて。・・・手
間である。2~3ヶ月で家が建っちゃうハウスメーカーと比べ
ると、こちらは土が寝て起きて・・・としているだけでも2~
3ヶ月どころか半年以上掛かるのである。手間である。
伝統的な左官工法が廃れていったのは、早さを求められる現代
には適合しなかったのが、一番の原因かもしれない。でも自然
素材はやはり人体に良いのである。そういった意味で、珪藻土
や漆喰・左官仕上げといったものは見直されているし、仕上げ
に使う人も徐々に増えているのだと思う。完全になくならない
のは、そんな理由かもしれない。
さて、そんな講義の中で印象に残った言葉を紹介して終わりに
する。
「一壁、ニ障子、三柱、四に畳で、五天井」というもの。昔の
建物で、大事な(目の行きやすい)部位を示す言葉だそうだ。
今や、ニ・三・四はあまり目にしなくなってきたが、一番大事
なのは「壁」というわけである。
昔は土壁に鉄粉を混ぜて、経年変化と共に錆が浮き出てくるの
を楽しんだり、貝殻を薄く削って光の反射具合を楽しんだり、
色鮮やかな鉱石を砕いて塗りこむことで発光するような表情を
楽しんだり、と色んな工夫がされていた。そんな遊び心は、現
代でも忘れてはならないと思った次第である。
何か一工夫するだけでも、他には見られないオリジナルな壁が
出来、オリジナルな空間が出来るのだと思う。
一度、左官塗り壁に庭に落ちているモミジの葉っぱをお施主様
了解のもと、張り付けたことがある。しばらくすると、枯葉に
なり、葉っぱそのものは外れてなくなったのだが・・。
そんなことを思い出した講義でもあった。
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■編集後記
黄檗宗万福寺の360年間使用されてきた柱を見せていただき
ました。風雨に晒されている面の劣化は確かにあるものの、土
壁に保護されていた側面や裏面はまるで無傷でした。360年
など想像もつきませんが、自然素材の強さを感じずにはいられ
ませんでした。
自然は時に脅威です。そして人間はあまりに無力です。でも、
自然の強さと共存していく知恵を昔の人も、そして私達も持っ
ているのだと思います。
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忘れないこと。
諦めないこと。
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