空間工房 一級建築事務所

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11.01.28 Friday

目的と手段

■食べるために働くのか。働くために食べるのか。という命題は

 よく語られます。前者の場合、食べることが目的となり、働く

 のは手段となります。後者はその逆。考え方は人それぞれです

 が、考え方次第で目的と手段が入れ替わることがあるようです。

 まあ上述のものに限らず、世の中には目的と手段が溢れている

 わけですが、今回はそんなお話しを少し。

 それではどうぞおたのしみください。
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■目的と手段

 先日、NHKの「クローズアップ現代」という夜7時半からや
 っている番組で、SANAAのお二人がクローズアップされて
 いた。昨年、建築界のノーベル賞と呼ばれるプリッカー賞を受
 賞された妹島氏と西島氏による事務所名がSANAAである。
 いつぞやのコラムでも書かせていただいた。

 恐らく、一般の方にも馴染みのある代表作品は「金沢21世紀
 美術館」になるかと思う。

 そんな番組を見て感じたことを書いておきたい。全くの主観で
 あり、的外れかもしれないが。

 このお二人に限らず言えることかもしれないが、強く感じたの
 は、「建築を創り出すこと。設計すること。それ自体を目的と
 はしていない。」ということである。建築家が建築設計を目的
 としていない、とは余りにも逆説的だと思われるかもしれない
 が、書いている本人は逆説を語っているつもりは毛頭ない。

 あくまで、建築を創造/設計することは手段なのだと思う。多
 分。

 つまり、目的は他にある。建築を通して、人と人との関係性を
 より良いものにしていきたい。とか。賑わいを発生させて、地
 域を活性したい。とか。人が集まることで新たなコミュニティ
 の在り方を引っ張り出したいとか。感動を与えたいとか。モノ
 の大切さを認識し直して欲しいとか。

 感動を与えたい場合。例えば、建築という手段の他に音楽だっ
 たり小説だったり映画なども「手段/媒体」として挙げられる
 かもしれない。音楽家はメロディやリズムやハーモニーといっ
 た事象を駆使して、何かを表現する。小説家なら、単語の選出
 や文章構成、表現方法などの技術面はもとより、話しの流れや
 登場人物の言動・気持ちの動きなどを通して、何かを表現する。
 同じように、建築家は空間構成や開口の位置、高さ方向の操作
 はもとより、外部との関係性、仕上げ素材、利便性などを通し
 て、何かを表現するのだと思う。

 建築や空間を創ること、それ自体が目的となった場合、なんと
 なくだが、内に閉じたというか、自己完結型というか、ステレ
 オタイプ的というか、あまり発展性の望めない「空間」が出現
 して終わり、のような気がする。

 そうではなく、その先。空間のその先に、目的を埋め込むこと
 で、出来上がった空間には、物理的な空間尺度に納まらない「
 何か」が出現するのだと思う。

 その「何か」こそが目的であり、そうなってはじめて建築が「
 手段」になる。

 そんなことを、冒頭の番組を見て思った。

 住宅なら、そこで生活する。生活するだけなら、必要な機能さ
 え備わっていれば、それで事足りるわけである。そうではなく、
 家族同士の繋がり方とか、地域との繋がり方とか、その中で繰
 り広げられる出来事や会話、その中から見える風景などにまで
 思いを馳せて、思いを込めた空間にすること。その空間により
 生まれる、寛ぎの時間や団欒の仕方など。そういったものに目
 的を置くと、やはり必要な機能が揃っているだけでは、目的は
 達成できないのだと思う。

 建築家は、建築を創ることを目的としていない。とは、そうい
 うことである。
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■編集後記

 いやいや、建築を創るのが目的に決まってるじゃない。と

 SANAAのお二人に言われてしまえば、それまでです。
 
 が、お会いすることもないので、言われることもありません。

 しかし個人的には、建築を創ることが目的ではないほうが

 絶対楽しいと思いますし、自由な発想ができるように思います。

 その目的を建築に落とし込んでいく。目的が達成できるかを

 考える。目的を達成する手段を考える。思考の順序を変える

 ことで、今までになかったものが生まれる気がします。
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 目的はひとつ。
 手段は百通り。

コラム | by muranishi | comments(0)

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