空間工房 一級建築事務所

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11.01.14 Friday

山荘と町家

■ケーキが食べたいな~と思っていると、偶々お土産でケーキを

 頂いたり、不用品回収に出したいな~と思っていると、偶々回

 収車が近くを通ったり。という偶然の経験は誰にでもあること

 だと思います。そんな「念ずれば通ずる」的な経験をつい先日

 も味わいました。

 そんなお話しを交えつつ、今回のコラムです。

 それではどうぞおたのしみください。
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■山荘と町家

 京都の東山・南禅寺界隈に広がる別荘地。このコラムでも2回
 前のコラムを筆頭に、過去3回ほど取り上げている。

 そして何の偶然か、つい先日、その別荘/山荘の一つにお邪魔
 させていただく機会を頂いた。原則的に非公開なので、具体的
 な山荘名は伏せるが、NHKの特集でも紹介されていたもので
 ある。この界隈の庭園の多くは、近代日本庭園の先駆者とされ
 る小川治兵衛氏によるものだが、訪れた山荘も、同氏によるも
 のだった。

 割合でいけば、庭7割、屋敷3割といった感じだろうか。池に
 は舟が浮かび、数々の滝からは水の音が聞こえ、水車が廻り、
 起伏に富んだ庭園には東屋が散りばめられ、目に入るのは木と
 東山。周囲の雑多なものは皆無。別天地。といった様相である。

 庭の素晴らしさも然る事ながら、屋敷も細部に至るまで職人の
 工夫と技が光る。それこそ溜息しか出ない感じ。築年数は軽く
 100年を超えている。なので、構成されている部材は当然な
 がら、自然素材ばかり。木・土・石・紙・藁などなど。自然界
 の中から、よくぞこれだけ同じ径・長さ・質感の無垢の木を集
 めてきたな、と思ってみたり、考えただけで気が遠くなるよう
 な加工が加えられていたり。言葉ではとても伝えられない工夫
 と技を、自分の肉眼で見ることが出来ただけでも感謝である。
 そして同時に、世の中には未だ知らない領域が数多くあること
 を実感出来た。

 この山荘も当初の持ち主から入れ替わり、今は私が知っている
 限りで4代目の持ち主である。敷地は5000坪は下らないだ
 ろうから、維持管理コストは並大抵のものではないことが容易
 に想像出来る。文化財の指定を受けているため、現状維持を条
 件に固定資産税は免除されるそうだが、庭園の手入れだけでも
 年間1~2千万円は掛かるだろうから、割が合う合わないの次
 元ではない。ましてや、屋敷の手入れ・管理費も考えれば相当
 なコストである。と思う。

 まあ、松下や野村など日本を代表する企業が迎賓館的に所有し
 ている山荘なので、そんな下世話な話しはどっちでも良いとし
 て、それだけの家屋と庭園を維持し続けるのは、大変だろうけ
 ど大切な役割を担っていることに他ならない。

 翻って、庶民が所有する町家。こちらの維持管理も、真剣に考
 えなければならない。

 固定資産税や相続税が免除されるわけでもなんでもなく、維持
 費用は真っ向勝負となる。

 切実というか、痛切に感じる、町家保存の障壁は以下の通り。

 まず寒いし、暑い。次に耐震性が心配。最後に家族構成の変化
 に家が対応していない。

 これらの問題を多くの町家が抱えているんだと思う。

 特に最後の問題。昔は大家族で使っていたが、今では老夫婦の
 2人のみ。使わない部屋が多い割りに、快適なわけでもなく、
 どちらかと言うと不便。明るく快適で手間の掛からない居住ス
 ペースが理想なのに、実際はことごとくそれらの裏を突いてい
 る感じ。

 単純に考えれば、減築という手段が浮かぶ。部屋が足りないか
 ら増築、に対して、部屋が余っているから減築。

 例えば2階を無くして、平屋にする感じ。

 さて、それでよいのか?という所をまずはじっくり吟味/検討
 する必要がある。なぜなら、一度減らしたものを、簡単に足し
 たりは出来ないので。

 要は、維持費などの「経済面」。断熱・耐震性などの「機能面」
 に加えて、本来の構造躯体や造作といった「文化面」も加えた
 上で、どのようにするのがベストなのかを考える必要があると
 思う。

 トータルバランスにアイデア/発想を加えて、町家保存・再生
 に臨みたい。

 山荘も町家も、恐らくは永遠に存在し続けることは不可能なの
 かもしれない。それは自然災害が理由であったり、経済面が理
 由であったり。

 しかし、「残したい」という思いが湧いてくるのは何故だろう。
 それはきっと、「二度と同じものを創ることが出来ない」とい
 う危機感からである。今は、より良い性能(断熱やユニットバ
 スなど)が世の中には溢れているし、お金を出せば簡単に手に
 入れることが出来る。一方で、往時の大工技術は今や失われ、
 建材も貴重で、現法律下では建てることが叶わない工法で、尚
 且つ街並み形成の核となっているとなれば、「残したい」思い
 が湧くのも不思議ではない。

 しかし、単に残すだけでは、その住人が犠牲を払うだけになっ
 てしまう。そうではなく、「どう残すか」を真剣に考えねばな
 らない。
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■編集後記

 非公開の別荘を見たいと思っても中々見れるものではありませ

 ん。と言いますか、普通は不可能だと思います。しかし今回は

 何かの申込みをしたとか、「見たい」と誰かに伝えたわけでも

 なく、本当に偶然知り合いから頂いた機会でした。感謝です。

 町家のお話しも、念ずれば・・・の如くお話しを頂きました。

 なんとか実現したいと思っています。どのように実現させるか

 を慎重に検討しつつ・・・。

 さて、info@yosyakozo.jpよりコラムのご感想・ご意見を承り

 中です。コラムに限らず、何でも結構です。どうぞご意見など

 お聞かせください。ではでは・・。
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コラム | by muranishi | comments(0)

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