空間工房 一級建築事務所

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10.03.15 Monday

一日9千回

■今日のお昼ご飯は、何を食べられますか?

 「まだ決めてない」と仰る方が殆どだと思います。

 何を隠そう私もその中の一人です。

 まあ、この質問は心理テストでも何でもありませんので

 どうぞ気にせず、スルーして下さい。

 だいたい前置きというものは、本文に関係していることが

 多いので、何故昼食のメニューを聞いたのかは本文をお読み

 いただければ分かるようになっています。

 それではどうぞおたのしみください。
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■一日9千回

 一日9千回。

 何の数字か?

 とある説によると、人間は起きてから寝るまでに、9千回の判
 断を毎日しているそうである。

 「起きよう」と判断してから「寝よう」と判断するまでの判断
 総数。実に多い。

 「心臓を動かそう」とか「呼吸をしよう」とかは含まれていな
 い。そんな9千回の判断。「歯を磨こう」といった些細な判断
 から「家を建てよう」という重大な判断/決断まで、色々ある
 が、回数にすれば、判断の重要性に限らずいずれも「1回」と
 みなされる。

 毎日生活している中で、自分の些細な判断を意識して生活して
 いる人は殆どいないと思う。

 しかし「決断」と呼べる領域の判断は、後々まで記憶に残る。

 私達が設計している中でも判断/決断は絶えず行なっている。
 例えばドアを例にとる。位置をどうするか。開き勝手はどうす
 るか。色は?レバーハンドルの高さは?種類は?扉のデザイン
 は?仕上げは?幅は?高さは?明り採りをつけるべき?つけな
 いべき?・・・ドア一つでも実に10項目程度の判断が必要と
 なる。

 それが、プランや外観となってくると、判断の回数は飛躍的に
 多くなる。

 現場の監理に入っても然り。確認する作業と同様に判断する作
 業が非常に重要になってくる。

 独立当初。今から思えば、現場監理もまだまだ未熟な状態であ
 った。勿論全力で監理にあたってはいたが。当時はデジカメな
 ども出始めで、まだカメラが主流だった。だからと言ってはい
 けないかもしれないが、現場の進捗状況をカメラにおさめて、
 現像に出して・・としている時間のゆとりはなかった。お金も
 かかる。なので、「目視確認」が主たる手段であった。現場に
 行って、現場監督や大工さんに聞かれれば、その場で判断して
 回答する。重要なことはお施主様に確認して指示を出す。

 議事録や議題も、大体は現場監督任せであり、出された質疑に
 回答するという感じ。言わば受身的な感じである。

 それでは、ダメだといつの頃だったか思った。設計図を描いて
 いるから、あとは現場が図面通りに進んでいるかを監理する。
 質問に応える。目視確認をする。議事録は監督の書いたものを
 確認する。・・・それではダメだと今は思っている。

 今の現場監理の方法。これが正解と言うことは出来ないが、色
 々と経験してきた中で、今のところ最低限これだけはやること
 にしようと決めていることがある。

 現場監理は原則として週1回は行なっている。これは独立当初
 から変わらず行なっている。その上で、現在行なっているのは
 以下の通りである。

 <予習>
 まず議題を挙げる/書く。その日に確認すべき事項・検討すべ
 き事項・次週の工程確認などを、施工者が作成した工程表を基
 に書き出す。書き出すことで明確になる。次回までに決めたい
 事項も明確になる。お施主様に決定頂かなければならない事項
 も明確になる。

 <本番>
 次に現場で、議題に沿って確認・検討を行う。単純に「見落と
 し」がなくなる。工程通り進んでいるかどうかも把握しやすい。
 可能な場合はお施主様にも現場定例会議に参加していただき、
 決められる事項を潰していく。そして次週の工程に無理がない
 か、はたまた全体工程に無理がないかも確認する。
 加えて、必ず現場の進捗具合が分かる写真をデジカメで撮る。
 前回の指摘事項が直っているかも記録に残す。

 <復習>
 最後に議事録を書く。施工者任せにしない。自分で書く。その
 日確認した事項・決定した品番や色・変更が生じた事項・次回
 までに決定すべき事項・チェックすべき施工図面などを改めて
 書き起こす。さらに、現場写真や決定した事項などは月次の監
 理報告書に記載する。

 以上に加えて、定例会議日以外の日にも現場からは質問や図面
 が送られてくるので、逐一監理報告書に記載していく。

 「予習・本番・復習」の流れ。小学生の勉強の基本と全く同じ
 である。

 全て自分の手で書いたりまとめたりすること。これが繰り返し
 行なわれる。1回の判断ではなく、3回以上の判断・確認を一
 つの事象に対して行い続ける。1日9千回から比べれば、非常
 に少ない。とは思う。しかし、ぶっつけ本番の1回の判断で下
 される内容よりは、その判断内容の誤差が少なくなると考えて
 いる。全ての判断を1回で100%にすることは、多分危険。
 3回でも少ないかもしれない。しかし、1回よりは確度が断然
 上がるものと今は考えている。

 先日、柔道の野村選手の特集をニュースでやっていた。オリン
 ピック3連覇を成し遂げた、あの野村選手である。惜しくも北
 京オリンピックには出場権を得られず、4連覇は達成出来なか
 ったが、次回のロンドンオリンピックの出場はもとより、金メ
 ダルを目指して現在も現役で練習に励んでいる。野村選手とい
 えば、一本背負いが十八番である。

 曰く「考えてから技(一本背負い)を出すようだと練習不足。
 体が勝手に反応して技を出せるようになるまで練習しないとい
 けません。」

 ひょっとすると、「判断」の領域から「呼吸をする」などとい
 う無意識のレベルに持っていこうとされているのかもしれない。
 そうでないと、世界一にはきっとなれないのだろうと思う。

 まさか、現場監理で「無意識」の領域で判断するわけにはいか
 ないが、物事を何回も繰り返して判断を重ねていくことで得ら
 れる正確さを得とくできるかもしれない。勿論、お施主様に聞
 くべきことは守ったうえで、詳細の納まりなどプロじゃないと
 判断がつかない部分に対しての発言であるが。

 「予習・本番・復習」には時間も手間も掛かる。だからより良
 いものが出来ると信じている。

 これが今現在、最低限やるべき内容だと思って実行している。
 正解ではないかもしれない。もっと回数を増やさなければなら
 ないのかもしれない。それは、今後もっと経験を積んでいった
 ときに分かる事柄なのかもしれない。

 常に進歩することが必要である。一つのやり方を見直す時も必
 要である。今後も改良を重ねて、現場監理を進めていきたいと
 思っている。

 以上で今回のコラムを終わりとする。と書こうと今9千分の一
 の判断をした。
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■編集後記

 お昼ごはん。決まりました?

 9千分の一の判断が、それです。

 なので、迷わないでください。9千分の一ですから。

 私?私はほぼ毎日、事務所の斜め前にある大力食堂で食べて

 ます。なので、お店を決める判断は無意識下にあります。

 でも毎日そのお店なので、メニューを決めるときは滅茶苦茶

 迷います。たかが9千分の一の判断なのですが・・・。

コラム | by muranishi | comments(0)

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