空間工房 一級建築事務所

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10.03.12 Friday

ある建築家の言葉(7)

■今回は少し長いコラムです。

 ですので、前置きは省きます。

 それではどうぞおたのしみください。
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■ある建築家の言葉(7)

 今回は、ある建築家の言葉シリーズの7回目。

 先日、建築家の内藤廣さんの講演会に行ってきた。

 何回目かのこのコラムでも登場した建築家。大乗仏教・小乗仏
 教の話しを書かせていただいた、あの方である。(覚えている
 方がいれば嬉しい・・)

 「とらや」の設計をされた方と言えば思い出していただけるだ
 ろうか。

 機会があれば、色々な建築家の講演会に参加するのだが、内藤
 さんは非常に視野が広い。と感じた。

 建築を建築の内部で終わらせるのではなく、建築を通して周辺
 を巻き込むというか、建築を一つの媒体/触媒として様々な事
 象を巻き起こすというか、ともかく建築単体で終わらせない力
 /魅力を持たれている。

 具体的な話しは、長くなりそうなので今回は割愛するが、実際
 の講演を聴いた感想は上記のような感じである。

 質疑応答に於いては、「1」の質問に「10」以上の丁寧な言
 葉で応えられていた。人柄も凄く良い感じの方だった。

 さて、そんな講演会を聴いて印象に残っていることを少し。

 現在の世界人口が何人かご存知の方は多いと思う。約65億人
 である。多いか少ないかは置いておいて、ほんの100年ほど
 前の世界人口をご存知の方は少ないと思う。今から100年前。
 丁度明治維新の頃である。答えは、約10億人。

 この100年間での世界人口の増え方は、もの凄い。

 なぜなら、この100年以前はずーっと5億人程度で推移して
 いたから。

 そして、今後40年(2050年)で世界人口は90億人程度
 まで膨れ上がると予想されている。

 世界人口推移をグラフにすると、1900年頃まではほぼ水平。
 その後はほぼ垂直。という極端なグラフになる。

 何か、恐ろしい。

 さて、それでは日本の人口推移。2006年の約1億3千万人
 をピークに、減少をし始める。というか、もう「し始めている」。

 世界人口が増え続けるのに、日本人口は減り続ける。約100
 年後には4700万人程度になると予想されている。

 日本は、歴史上初めての人口減少を体験する国らしい。しかも
 高齢化を伴って。

 ・・・建築の話しというよりも社会学的な話しである。

 内藤さんは、この予測から「建築には新たな価値を見出すべき
 時代に突入している」と言われた。

 建築とは50年・100年先を見据えた、ロングスパンでの思
 考が要求される。日本のその50年・100年先の未来は、現
 在の予測では、人口が半減するということが事実としてある。

 だから今までとは、思考のスタンスを変えるべきなのではない
 か。と。

 曰く「ロングスパンで考えて設計をしている人はいるかもしれ
 ない。しかし、人口減少という現象まで考えて設計している人
 は少ないのではないか。これから設計をする人/していく人は
 その辺りも良く考えて設計に取組むべきだ。」

 勿論、その答えを教えてくれたわけではない。だって答えなん
 てあるわけないのだから。

 というのが前置き。(長っ!)

 ここからは私の独断と偏見に満ち溢れた文章/思考である。な
 ので、事実は一つも書かれない。それを念頭にお読みいただき
 たい。

 少なからず、50年後・100年後にまでも「寂びる」ことは
 あっても、「錆びない」建築は志してきたつもりである。これ
 はもしかすると設計者の独りよがりかもしれない。しかし、志
 としては確か持っている。完成した時が一番美しい姿ではなく、
 数十年の時を経た時に美しさが増すような建築。若しくは、美
 しく歳を重ねる建築。そういう建築を目指して来たし、これか
 らも目指していきたい一つの指針である。

 が、正直に言って、日本の人口減少までは確かに考えていなか
 った。どちらかと言うと、お施主様の将来像に焦点をあててき
 た。それは間違いではないと、今も思っている。しかし、もう
 少し広い視野を持つ必要が、どうやらありそうである。

 単純に考えると、人口が減少するということは、現在街中に存
 在する建築群を使用する人が居なくなる。ということである。
 想像しただけでも寂しい風景が頭に浮かぶ。今でも、少し田舎
 の方に行くと、人通りのない寒々とした/閑散とした街を見る
 ことがある。牧歌的というよりは、廃れた印象を拭えない印象。
 アンパンマン列車に子供を乗せるためだけに、途中で降りた駅
 前の風景が、そうだった。

 やがて、そうした街の風景が全国のいたる所で出現する。しか
 しそれは、避けて通れない日本の運命である。と仮定する。

 やがて超高層ビルなどは、無用の長物となる。

 しかし、内藤さんは講演会の中で「現在、渋谷駅の半径300
 m内で6本の超高層ビル建築のデザイン監修にあたっている」
 と述べられていた。

 ・・・矛盾を感じる。大きな矛盾を。

 100年後を考えるなら、今創るべきではない。とも言える。
 が、そんなことを言ったら、何も創れないのも事実である。だ
 から、創るべきではないというのも間違いであることは分かっ
 ている。

 恐らく視野の広い内藤さんのことだから、その辺りもバッチリ
 考えているに違いない。と思いたい。

 少し話しが逸れた。よくあることである。話しを戻す。

 廃れる風景。これは、どうしようもない。京都の街中の小学校
 ですら、この20年程度で多くが廃校になった。子供が居ない
 のに学校だけあっても仕方がない。

 ある学校は喫茶店が入った市民ギャラリーになったり、またあ
 る学校はマンガミュージアムになったりして、コンバージョン
 (使用目的を変えてリフォームすること)されている。京都の
 町屋もここ数十年でかなりの数が姿を消している。住人が居な
 い+相続税が払えない。といった理由からだろう。そんな町屋
 をコンバージョンしてレストランや喫茶店にすることも最近で
 は目新しくなくなってきた。

 コンバージョンされて、人が出入りしているのを見ると「廃れ
 た」感はない。建物も何かイキイキとした印象を受ける。

 コンバージョンは一つの活路であると思う。が、恐らく人口半
 減のご時世には、それすらできない/やっても人が来ない状況
 になるのだろう。

 果たして打つ手はあるのか?

 答えなど、そう簡単に出ないので、思考をさらに書き連ねる。

 人口が半減した時、土地の価格は下がる。これは断言できるか?
 実は難しい。なぜなら、半減した人口の約7割が都市部に住む
 と言われている。なので、現在の都市部で土地の価格が高い所
 は、需要と供給のバランスから言って、必ずしも下がるとは言
 えない。と思う。土地を広く使えるからといって、不便なとこ
 ろに住む人は今も数は少ない。やはり便利な所に住みたいと思
 うのが世の常である。

 すると、地方は崩壊する。住民が居ないのだから、物理的にも
 崩壊するが、住民税を取得出来ないので、経済的にも崩壊する。

 残るは都市だけである。異様と言えば異様。当然と言えば当然。

 都市のあり方をどうするか。地方は崩壊しても良いのか。とい
 った問題が浮かび上がる。高速道路や鉄道といったインフラも、
 その段になって不要になるかもしれない。地方の空港も然り。

 ・・・世界人口は増える。日本人口は減る。

 更なる開国へと歩むのか。明治維新の折、黒船が来航した。開
 国を迫られた。そしてそれから200年が経った2100年。
 日本は、海外移住者を受入れる若しくは、地方を海外向けのリ
 ゾート地にする。更なる開国とは、そういうイメージ。

 もはや、日本国内にのみ目を向ける時代ではなくなるのかもし
 れない。人が居なくなるのだから。

 その時、日本の建築が「潰したくない」と思われる街並みを形
 成していて欲しい。そして、私もそんな建築を創りたい。日本
 固有の建築。且つ世界に誇れる建築。寺社仏閣は世界から人々
 が訪れているではないか。ならば、街並みもそうありたい。

 と、一設計者は思うのである。

 思考は定まらない。もう少しじっくり考えて行きたい問題であ
 る。

 ひょっとすると、少子化対策が実を結び、再度人口増加に転じ
 るかもしれない。悲観しすぎるは良くない。例え増加に転じな
 くても、対策は何かあるはずである。

 非常に中途半端なコラムだが、またの機会に続きを書いてみた
 い。
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■編集後記

 他にも人口が減ることで生じる問題が、実は多くあります。

 それもまたの機会に譲りたいと思います。

 答えのない命題。通常の設計も然りです。

 お施主様が答えを教えてくれるわけではありません。

 ヒント/ご要望を基にプランを練り上げるのが私達の使命

 です。

 今回の命題については、自分の中でもう少し練る必要がある

 と思っています。

コラム | by muranishi | comments(0)

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