■玄関。建物の出入口のことを指しますが、実は仏教用語です。
本来は建物の名前ではなく、玄妙な道に入る関門という意味で、
奥深い教えに入る手始め、糸口を指していたようです。
庶民の住宅に玄関が設けられるようになったのも明治期以降。
それまでは、書院などを指して「玄関」と呼んでいたそうです。
普段使いなれている言葉も語源を辿ると面白い事実が隠れて
いたりします。
今回はそんな玄関のお話しも交えながら少し。
それではどうぞおたのしみください。
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■ある建築家の言葉(15)
今回は建築家 伊東豊雄氏の言葉から少し。
既にこのシリーズで登場していたように思っていたが、意外に
もまだだった。
仙台メディアテークを境/機に新天地というか別世界の扉を叩
かれた印象のある方。という個人的な印象を持っている。恐ら
く多くの方がそういう印象をお持ちかと思う。とは言っても一
般の方の中には知らない方も居られると思うが、簡単なイメー
ジで言えば、貴方の所属する業界の革命児を思い浮かべていた
だければよいかもしれない。但し、御歳もうすぐ70歳。安藤
忠雄氏と同い年である。
さてそんな方の言葉。
「建築は結局は『内』と『外』をつくってしまう」
至極当然でありながら、意味は深い。哲学的ですらある。
そう、例えガラス張りで透明感の高い建築物であろうと、所詮
は完全に外部=内部とすることは出来ない。という意味である。
いや、透明であればあるほど、内外の境界はますます目につく。
何が言いたいか。
建築家は時として、内外の境界を消し去ろうという努力をする。
それは何のためかというと、外部を内部に取込むためだったり、
自分が設計する人工物を自然界と融合させるためだったり、広
く見せるためだったり、いろいろな理由で。
しかし、どうしようもなく「内」は「内」であり、「外」は「
外」という状況を作り出してしまうのが、建築であるという。
つまり、その境界は「消せない」。
伊東豊雄氏が近年取組んでいるのは、外にいると思ったら中だ
った的な空間構成である。それは人間の内臓を例に語られる。
食べ物は口から入って内臓を通り、お尻から排出される。では、
内臓は内なのか外なのか。内のように見えて実は外なのではな
いか。と。
修行の足りない私からすれば「どっちでもいい」の一言なのだ
が、そんな理屈から構成される空間を模型などで見ると、やは
り「凄い」と思ってしまう。
内と外の境界を作り出すのは、壁や窓や屋根などの構成部位で
ある。例え洞穴のような横穴式住居であろうと、その出入口に
一枚の扉なりガラスが入った瞬間、明確に「内」と「外」が存
在し始める。この場合の境界は、扉なりガラスである。伊東氏
の取組みは、その扉なりガラスさえもなくしてしまおうという
意図である。たぶん。全然違うかもだが。
一般的な住宅を考えた時、壁や窓はあるにせよ、明確に内と外
を隔てる場所はどこだろう?
多分、私は「玄関」だと思う。
人が出入りする場所。
日本は上履きの生活スタイルなので、玄関で靴を脱いだり履い
たりする。
この「靴を脱ぐ・履く」という行為は結構「領域/境界」をよ
り明確にしている気がする。
例えばホテルであれば、エントランスからロビーを通ってエレ
ベーターに乗り、廊下を歩いて自分の部屋に入り、そこで漸く
スリッパに履き替える。旅館であれば、玄関で靴を脱ぐ。
住宅や旅館における玄関と、ホテルや美術館における玄関とで
は何か持っている意味が違う気がする。旅館のロビー/玄関に
スリッパで行くのは平気だが、ホテルのロビー/玄関にスリッ
パで行くのは勇気がいるので。
だから何というわけでもないのだが、ちょっとした行為/習慣
の中にも目に見えない「境界」が潜んでいるように思った次第
である。
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■編集後記
いつから日本が室内で上履きで生活するようになったのか?
とか、日本以外で上履きを主流とする国やその割合は如何ほど
なのか?など素朴な疑問は尽きません。
玄関が出来る以前の住宅の形態なども調べてみると面白い
かもしれません。
上履きと畳の文化は密接な関係があるように思いますが
最近では「オール畳」の住宅はあまり見かけなくなりました。
いずれは上履きの文化もなくなるのでしょうか?
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■発 行:空間工房 用舎行蔵 一級建築士事務所
(くうかんこうぼう ようしゃこうぞう)
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最近のユニットバスの床は「畳の柔らかさ」を追究している
ようです。床に座れるように。
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