■世の中に何が多くて何が少ないか。
何が足りていて何が足りていないか。
「何」の中には色々なモノや事柄が当てはまることと思います。
単純に「多い」対象に「足りない」モノを供給すれば良いだけ
なのですが、なかなか簡単なことではありません。
まあ、そんなマッチングビジネスで個人的に最も先に思いつく
のは「リクルート社」。
・・・って全く関係ない方向に脱線する前に、コラムを始めた
いと思います。
それではどうぞおたのしみください。
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■ある住宅の思考過程(7)
とあるコンペで、とある大規模宅地開発地に建てる、とあるモ
デルハウスのコンペ案が完了したところである。
今回はその住宅について少し書いてみる。
敷地は45坪。広すぎず狭すぎず。南の道路に面しており、西
には緑道が通る予定。つまり南西の角地。現場は現在造成中。
辺り一帯造成中。なので、街はこれから造られる。
条件として、想定する家族構成や人数は自由。必要な部屋など
も自由。必要な広さも自由。つまり、各自で想定して良いとい
う条件。つまり「特に要望無し」の状態。
遂この前、名古屋の現場にスタッフとオープンデスクで来てい
た大学院生を連れて行った。現場見学/勉強のために。図面は
机上で描くが、何故その壁厚になるのか?とか、額縁の納まり
をどうしているか?とか断熱材は実際にどのように入っている
か?などは実際に自分の目で見るのが一番。そして、自分が今
後描いていくであろう「線」に込められる意味を理解するには、
何よりも現場を見て知っておく必要があるのである。
いきなり話しを飛ばしたが、もうすぐ繋がる予定なので、も少
し我慢を。
そんな京都から名古屋の行き帰り。移動手段は車である。片道
約2時間。まあ、暇なので主に建築の話しなどをしてみるのだ
が、その時、私は一つの質問を投げかけた。
自分が目指したい建築のあり方とは何か?つまり、普通であれ
ば隣近所に既存の建物が建っている状態から設計を始めるので、
敷地周辺の文脈というか、街並みから否応なく影響を受ける。
しかし、仮にだだっ広い、若しくは「建物」という人工物から
の影響を全く受けない土地に設計するとしたら、どのような設
計を試みるか?
これは、言い換えれば「自分が設計した建物」が文脈の先頭を
切るということに他ならない。京都のように何百年も刻み込ま
れて来た文脈/街並みであれば、そこには自然と歴史や傾向が
生まれる。しかし、まっさらな土地に、これから歴史を刻んで
いこうとした時、自然/環境などからの影響は受けるとしても、
気を配るべき既存建物は無い。街並みという風景として参考に
すべき建物もない。そんな状態。
さあ、どうする?
鬱陶しい質問をするな!と思ったことだろう。私も改めて文章
に書いてみて、そう思う。
出てきた答えは「うーん・・」という唸りのみ。
もう一人は「環境からヒントなり理由付けを得る」という答え
であった。
ま、正解などない。なので、どんな考えを持っているのかな~
?という程度の軽い気持ちで聞いたので、明確に答えられなく
てもヤムナシである。
そう、今回のコンペはまさに私が投げかけた質問が我が身に降
りかかった感じの条件だった。
さあ、どうする?とばかりに。
街並みはない。これから形成される。家族構成もない。ないも
のづくしである。
そして私が謳いあげたコンセプトは以下の通りである。
■ DINKSまたは老夫婦の棲みか
家族のあり方が多様化してきています。いや、既に「家族」の
標準像というものは幻想でしかありません。
「平成20年国民生活基礎調査」のデータによりますと、日本の
世帯人数別世帯数、即ち家族構成の人数で最も多いのは、2人
家族。次いで単身世帯。その次が3人家族。
長年「標準像」とされてきました4人家族という構成は、19
70年代後半をピークに減り続け、もはや標準像とは呼べない
のが事実です。そして今や、世帯構成が3人以下である世帯は
全体の4分の3にまで成長しています。
さらに高齢化の実体。これはデータを挙げるまでもなく、日本
社会が必ず近い将来直面する現象でもあります。既に京都市で
は、全区における高齢者人口が20%を超えました。これは国
勢調査に基づき、最近発表された事実でもあります。
このような社会情勢にも関わらず、日本の住宅デベロッパーが
供給する多くは、幻想でしかない標準家族像を対象としている
ような気がします。
需要を掘り起こすべく、私達がご提案するのは「DINKS(
子供を持たない共働き夫婦)」若しくは「老夫婦」を主役に据
えた住宅です。
「そんなに広い家はいらないのに、探し始めると広い家しかな
い・・」
そんなDINKSの声を聞いたことがあります。明らかに世帯
構成でトップを走る2人家族。今、日本には、そんな2人家族
向けの住宅が少ない。そこに着目しました。
■ 閉鎖的住宅からの卒業
1970年代。高度経済成長期の半ばでもあり、丁度4人家族
が標準とされた時代。住宅は社会から距離を置きだします。極
端な閉鎖的住宅(住吉の長屋)が世間の注目を集めたのもこの
時期です。
膨張し続ける都市に対し、見るべきものはないとばかりに背を
向ける住宅。防犯やプライバシーを考えれば、当然の帰結でも
あります。しかし、それで得られたものは何でしょう。コミュ
ニティの崩壊?家族の崩壊?ひきこもり?
もう、閉鎖的な住宅から卒業する時代に来ている気がします。
完全開放とは言いません。しかし、住んでいる人の気配が伝わ
る街並みに戻して行くことが必要だと考えます。各住戸が開放
的になり始めた時、きっとそこにはコミュニティが再来し、D
INKSも老夫婦も安心して住まえる街が生まれると考えます。
街に対して開く。これが、この住宅の基本コンセプトです。こ
の住宅が先陣を切ります。
と、以上である。
さて、どんなプランに反映させていったのか。ひょっとしたら
ブログにて紹介するかもしれない。
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■編集後記
まあ、敷地の条件などから、必ずしもコンセプトをカタチにす
ることが常に可能なわけでもありませんが、今回はうまくいき
ました。と勝手に思っています。
コンセプトがカタチと乖離したり、コンセプトをカタチに無理
やり嵌めこんだりというのは、正直よくあります。
でもやはり、コンセプトとカタチがキレイに一対を成している
のが最高です。設計者の自己満足に過ぎないかもですが。
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広いか狭いかは、人口密度で変わります。
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