空間工房 一級建築事務所

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10.09.24 Friday

ある住宅の思考過程(7)

■世の中に何が多くて何が少ないか。

 何が足りていて何が足りていないか。

 「何」の中には色々なモノや事柄が当てはまることと思います。

 単純に「多い」対象に「足りない」モノを供給すれば良いだけ

 なのですが、なかなか簡単なことではありません。

 まあ、そんなマッチングビジネスで個人的に最も先に思いつく

 のは「リクルート社」。

 ・・・って全く関係ない方向に脱線する前に、コラムを始めた

 いと思います。

 それではどうぞおたのしみください。

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■ある住宅の思考過程(7)

 とあるコンペで、とある大規模宅地開発地に建てる、とあるモ
 デルハウスのコンペ案が完了したところである。

 今回はその住宅について少し書いてみる。

 敷地は45坪。広すぎず狭すぎず。南の道路に面しており、西
 には緑道が通る予定。つまり南西の角地。現場は現在造成中。
 辺り一帯造成中。なので、街はこれから造られる。

 条件として、想定する家族構成や人数は自由。必要な部屋など
 も自由。必要な広さも自由。つまり、各自で想定して良いとい
 う条件。つまり「特に要望無し」の状態。

 遂この前、名古屋の現場にスタッフとオープンデスクで来てい
 た大学院生を連れて行った。現場見学/勉強のために。図面は
 机上で描くが、何故その壁厚になるのか?とか、額縁の納まり
 をどうしているか?とか断熱材は実際にどのように入っている
 か?などは実際に自分の目で見るのが一番。そして、自分が今
 後描いていくであろう「線」に込められる意味を理解するには、
 何よりも現場を見て知っておく必要があるのである。

 いきなり話しを飛ばしたが、もうすぐ繋がる予定なので、も少
 し我慢を。

 そんな京都から名古屋の行き帰り。移動手段は車である。片道
 約2時間。まあ、暇なので主に建築の話しなどをしてみるのだ
 が、その時、私は一つの質問を投げかけた。

 自分が目指したい建築のあり方とは何か?つまり、普通であれ
 ば隣近所に既存の建物が建っている状態から設計を始めるので、
 敷地周辺の文脈というか、街並みから否応なく影響を受ける。
 しかし、仮にだだっ広い、若しくは「建物」という人工物から
 の影響を全く受けない土地に設計するとしたら、どのような設
 計を試みるか?

 これは、言い換えれば「自分が設計した建物」が文脈の先頭を
 切るということに他ならない。京都のように何百年も刻み込ま
 れて来た文脈/街並みであれば、そこには自然と歴史や傾向が
 生まれる。しかし、まっさらな土地に、これから歴史を刻んで
 いこうとした時、自然/環境などからの影響は受けるとしても、
 気を配るべき既存建物は無い。街並みという風景として参考に
 すべき建物もない。そんな状態。

 さあ、どうする?

 鬱陶しい質問をするな!と思ったことだろう。私も改めて文章
 に書いてみて、そう思う。

 出てきた答えは「うーん・・」という唸りのみ。

 もう一人は「環境からヒントなり理由付けを得る」という答え
 であった。

 ま、正解などない。なので、どんな考えを持っているのかな~
 ?という程度の軽い気持ちで聞いたので、明確に答えられなく
 てもヤムナシである。

 そう、今回のコンペはまさに私が投げかけた質問が我が身に降
 りかかった感じの条件だった。

 さあ、どうする?とばかりに。

 街並みはない。これから形成される。家族構成もない。ないも
 のづくしである。

 そして私が謳いあげたコンセプトは以下の通りである。

 ■ DINKSまたは老夫婦の棲みか

 家族のあり方が多様化してきています。いや、既に「家族」の
 標準像というものは幻想でしかありません。

 「平成20年国民生活基礎調査」のデータによりますと、日本の
 世帯人数別世帯数、即ち家族構成の人数で最も多いのは、2人
 家族。次いで単身世帯。その次が3人家族。

 長年「標準像」とされてきました4人家族という構成は、19
 70年代後半をピークに減り続け、もはや標準像とは呼べない
 のが事実です。そして今や、世帯構成が3人以下である世帯は
 全体の4分の3にまで成長しています。

 さらに高齢化の実体。これはデータを挙げるまでもなく、日本
 社会が必ず近い将来直面する現象でもあります。既に京都市で
 は、全区における高齢者人口が20%を超えました。これは国
 勢調査に基づき、最近発表された事実でもあります。

 このような社会情勢にも関わらず、日本の住宅デベロッパーが
 供給する多くは、幻想でしかない標準家族像を対象としている
 ような気がします。

 需要を掘り起こすべく、私達がご提案するのは「DINKS(
 子供を持たない共働き夫婦)」若しくは「老夫婦」を主役に据
 えた住宅です。

 「そんなに広い家はいらないのに、探し始めると広い家しかな
 い・・」

 そんなDINKSの声を聞いたことがあります。明らかに世帯
 構成でトップを走る2人家族。今、日本には、そんな2人家族
 向けの住宅が少ない。そこに着目しました。

 ■ 閉鎖的住宅からの卒業

 1970年代。高度経済成長期の半ばでもあり、丁度4人家族
 が標準とされた時代。住宅は社会から距離を置きだします。極
 端な閉鎖的住宅(住吉の長屋)が世間の注目を集めたのもこの
 時期です。

 膨張し続ける都市に対し、見るべきものはないとばかりに背を
 向ける住宅。防犯やプライバシーを考えれば、当然の帰結でも
 あります。しかし、それで得られたものは何でしょう。コミュ
 ニティの崩壊?家族の崩壊?ひきこもり?

 もう、閉鎖的な住宅から卒業する時代に来ている気がします。
 完全開放とは言いません。しかし、住んでいる人の気配が伝わ
 る街並みに戻して行くことが必要だと考えます。各住戸が開放
 的になり始めた時、きっとそこにはコミュニティが再来し、D
 INKSも老夫婦も安心して住まえる街が生まれると考えます。
 街に対して開く。これが、この住宅の基本コンセプトです。こ
 の住宅が先陣を切ります。

 と、以上である。

 さて、どんなプランに反映させていったのか。ひょっとしたら
 ブログにて紹介するかもしれない。

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■編集後記

 まあ、敷地の条件などから、必ずしもコンセプトをカタチにす

 ることが常に可能なわけでもありませんが、今回はうまくいき

 ました。と勝手に思っています。

 コンセプトがカタチと乖離したり、コンセプトをカタチに無理

 やり嵌めこんだりというのは、正直よくあります。

 でもやはり、コンセプトとカタチがキレイに一対を成している

 のが最高です。設計者の自己満足に過ぎないかもですが。

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 E-mail:info@yosyakozo.jp

 広いか狭いかは、人口密度で変わります。

コラム | by muranishi | comments(0)

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