空間工房 一級建築事務所

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10.09.17 Friday

あるワークショップ

■ワークショップで一般的に欠かせないのがポストイット。

 簡単に貼ったり剥がせたりするアレです。

 最初は商品化を目的に開発された商品ではなく、接着剤の開発

 途中で偶然生み出された「粘着力が弱い」失敗作を逆手に取っ

 て商品化したという開発秘話は結構有名です。

 転んでもタダでは起きない精神。かどうかは分かりませんが、

 逆転の発想が思いもよらないヒット商品になることもある例

 です。

 いや、その他の例は知りませんが・・。

 そんな話しとは全くもって関係のない今回のお話しです。

 それではどうぞおたのしみください。
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■あるワークショップ

 ワークショップ。色々な意味に解釈されるが、最近では、とあ
 る課題に対して集団で問題解決方法を模索したり基本方針を取
 りまとめていったりするものを指したりもする。

 先日私も、とあるワークショップに参加してきた。

 そのワークショップとは、区役所建替えにあたって区民から意
 見を募るためのものであった。

 対象は京都の上京区役所。参加資格は上京区在住・在勤の人。
 私達の事務所が上京区に存在しているため、参加してみた。生
 まれ育ったのも上京区なので、区役所には何度か訪れた経験も
 ある。特に愛着はないが・・。

 参加人数は約25人程度。その殆どは、町内会長さんだったり
 婦人会の役員さんだったりだった。恐らくそれらの人たちは、
 直接参加依頼が区役所からあったものと思われる。年齢層も決
 して若いとは言い難い。平均年齢は恐らく60代ではないだろ
 うか。もうすぐ40間近の私でさえ、最年少の部類に入る感じ。

 ワークショップは3回にわたって行われる。今回はその初回。
 基本設計段階でのワークショップである。1チーム5人程度に
 分かれて、課題をこなしていく。

 課題は3つ。

 まず、今回の区役所に求めたい外観を、他の行政区役所や建物
 例の写真からピックアップしていく作業。同時に、「これはイ
 ヤ」というのもピックアップしていく。

 次に内観。やりかたは外観と同じ。

 最後に、上京区に相応しい「キーワード」を挙げていく作業。

 ざっと以上のような感じである。

 このワークショップに先立ち、建物ボリュームの検討程度の設
 計は、組織設計事務所によって行なわれている。そのボリュー
 ムに対するイメージを、ワークショップを通して区民の意見を
 取り入れるというのが目的らしい。30人に満たない意見が、
 区民の総意になり得るとは到底思えないが、総意を汲み取るこ
 となどそもそも無理だとも思うので、やむを得ない。

 ブレーンストーミングと違って、議論のやり取りは特に執り行
 われなかったが、皆さんが「京都に建って欲しい」建物がどの
 ようなものなのかを、大筋で知ることが出来ただけでも勉強に
 なった。「京都に建って欲しい」とは、言い換えれば、自分達
 が暮らしている京都に対して、どのような思いを持っているか
 ということである。

 意見として多かったのは、「歴史」は尊重しつつ「革新」も目
 指す。ということ。ただ古いだけではNG。そこに現代テイス
 トを盛り込んでいきたいという感じ。

 平均年齢60代(正確ではないが)の皆さんの意見である。伝
 統を守るだけでなく、更新を加えるという考えは、まさに「守
 ・破・離」ではないだろうか。

 外観のテイストをピックアップする際に面白かったのは、素材
 に「とらや京都店」と「京都国立近代美術館」が混じっていた
 ことである。それぞれの設計者は、内藤廣氏と槙文彦氏。いず
 れも日本を代表する建築家である。そして、とらやは好評を受
 け、美術館は酷評を受けていた。いや、どちらも建築としては
 素晴らしいことに違いはないのだが、「京都」目線でいくと、
 そういう結果になる。恐るべし民意。勿論、どれが誰の設計で、
 その誰それの履歴を知っている人は皆無である。なので非常に
 ピュアな見解を聞けたのも良かった。

 私の場合、どうしても設計者目線で物事を見てしまう。時とし
 てこれはあまり良くないとも思った。素人目線で捉えることの
 大切さを再認識したところである。

 そしてもう一つ思ったこと。

 民意は数多く存在する。ただ、多数派が必ずしも正しいことを
 述べているとは限らない。ひょっとしたら、少数派の中に優れ
 た意見も含まれている。民主主義の難しいところではあるが、
 多数派意見は勿論尊重しつつも、決して多数決で建物を建てて
 いくべきではないんじゃないかな?と思った。ただ、そこには
 主観・嗜好・趣味といった「個人」の価値基準が入り込んでし
 まうので、それはそれで、判断者側の選別になってしまう危険
 性は孕んでいるのだが。

 そういった意味でもワークショップを通して、価値基準を区民
 側が共有していくこと。そしてそれを行政なり設計者に提示し
 ていくことが重要であり、最近ではそのような機会が設けられ
 ることが多くなったのも、双方にとって有意義なことだと思う。

 本来、公共施設とは、行政の一方的解釈や設計者の独自解釈等
 で進めるべきことではない。と思う。職員という使用者的立場
 と住民という利用者的立場が相互に意見を出し合って創造して
 いくべきものだと思うのである。

 ワークショップはあと2回。今後は全体の配置計画や階層のゾ
 ーニング、外観の具体的イメージ(素材)の検討などが予定さ
 れている。参加した限りは、少しでも良いと思える区役所にな
 れば幸いである。(本当は自分で設計したい位だが・・)

 素人目線と専門家目線を行き来しながら、参加していきたい。
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■編集後記

 深い庇(軒)。縦格子。落ち着いた色。低い建物。

 結局は「京町家」が有するデザイン要素に対して多くの方が

 愛着なり好意を持って居られることが良く分かりました。

 そこに太陽光発電や緑化など環境に配慮された仕組みを結合

 させていくことにも興味があるようです。

 町家と区役所の決定的な違いは「大きさ」「ボリューム」に
 
 あります。巨大な町家は、絶対に異様に映る気がしますので

 分節化が必要となるわけですが、スケールダウンが必ずしも

 良いとは思いません。個人的にですが。その分節化の方法が

 重要だと思っています。

コラム | by muranishi | comments(0)

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