空間工房 一級建築事務所

HOME > MESSAGE コラム > ある住宅の思考過程(6)
10.09.15 Wednesday

ある住宅の思考過程(6)

■中古住宅の評価制度を確立していき、正当な価格で流通して

 いくような仕組みにすることを、現在国土交通省が取組んで

 います。今までのスクラップアンドビルド社会からストック

 社会へと移行する意図/意思の表われかと思います。

 そしてその一方で、世の中には建替えたくても建替えられな

 いものもあります。いわゆる「再建築不可」という代物。

 一般的に道路に接している敷地の長さが2m以下の場合は

 建築基準法上「建築不可」となっています。消防活動が

 出来ないとか、防災上問題があるなどの理由からですが、

 基準法が出来た昭和25年以前に現存していた上記の建物は

 「再建築不可」となるわけです。

 理不尽な気もします。防災面からは正当な気もします。

 なんとも言えませんが、そのような理由で残っている建物も

 事実として、一杯あります。

 そんなお話しと少し関連する今回のお話し。

 それではどうぞおたのしみください。
_____________________________

■ある住宅の思考過程(6)

 とある、ちっちゃな一軒家(平屋)のリノベーション(以下リ
 ノベ)を設計しはじめたところである。

 場所は東京の住宅密集地帯。延べ床面積は11坪。築年数は7
 0年~80年と想定される、戦前の建物である。

 ご要望は、当面はアトリエとして使用し、将来的に賃貸(ワン
 ルーム的)に出すというもの。それだけである。

 今、何を最優先させるべきかを考えている。

 予算の都合上、外観は殆ど手を加えない方針にはなった。まあ、
 外観を一新しても、ほぼどこからも見ることが出来ない敷地状
 況なので、それはそれでよいと思っている。

 下手に手を加えて、張りぼて的な気持ちの悪い新しさに生まれ
 変わるよりも、「古い」ということを真正面から受入れて、「
 古さ」ありきで設計を進めた方が、今回の場合は総合的に見て
 も、良いように思った。「古さ」をどう捉えるかだけの問題で
 ある。特にリノベの場合は、何もかも新品が良いとは限らない。
 古さと新しさのギャップをどう味方につけるか。若しくは、古
 いモノと新しいモノをどう調和させるかが醍醐味となる。

 そんなわけで、意識を集中させるのは「中身」である。しかし、
 その「中身」で最優先させるべき事項が何なのかを明確にして
 おく必要がある。

 普通であれば、各部屋の広さや繋がり方、動線や家族の居場所
 など、それなりに要望は多岐に亘る。

 が、今回はほぼワンルーム的空間。ここでいうワンルームとは、
 ワンルームマンションのワンルームという直裁的な意味である。
 そのため、空間の繋がりと言えば「部屋/居住空間」と「水廻
 り」の相互間でしか作用しない。まあ勿論、部屋と外部の繋が
 りなどはあるのだが、内部に限って言えば上述の通りである。

 それならば、それで進めればよいというか、それで進めるしか
 ないというのが現実ではある。

 部屋に光や風を取り入れて、快適な空間とし、水廻りはどこか
 に集約して効率化を図るか、居室の採光などの邪魔にならない
 場所に配置するなどすればよい。そして総合的にまとまりのあ
 る空間に仕上げていけばよい。

 単純に考えれば、そうなる。そうなってしまう。

 では、そこに「最優先」されていることは何なのか?快適な居
 住空間を創造すること。なのか?

 いや、それは「最優先」以前の問題でしかない。最優先という
 よりも「大前提」でしかない。

 その「大前提」を満足させつつ、このリノベで成し遂げるべき
 事項が「最優先」させるべき事項なのだと思う。それは、設計
 という行為を貫く概念/コンセプトともなる。

 この住宅は貸し家として、何十年もの間一つの家族体が住まわ
 れていた。最後は老婦人一人となり、公共の施設に移られるこ
 ととなったのをキッカケに、持ち主の方が今回のリノベの話し
 を持ち上げた。その何十年の間には家族数人で生活されていた
 時期もあったらしい。戦前の住宅だから、住環境が素晴らしい
 と言うわけにはいかない。しかし、そんな中、3帖・6帖・
 4.5帖・3帖という空間構成が、その家族を守ってきた。部
 屋数だけで言えば4部屋存在することになるが、広さで言えば
 17帖に満たない。それが生活空間の全てである。少し前のコ
 ラムで述べた、戦後の公営住宅モデル51C(2DK)が頭を
 よぎる。51Cよりさらに狭い。ということは、戦前(戦中)
 の住宅モデルの方に近いのか?と思って調べると、「国民住宅」
 とされる臨時日本標準規格の「甲3号型(3帖・6帖+台所)」
 に毛が生えたような感じであることが分かる。なるほど、戦前
 ・戦中の住宅とはこういうものだったんだ。と実感が湧く。今
 と比べると確かに狭い。しかし、それが一般的だった時代もあ
 る。それが現代にまで生き残っている。その一例が今回のリノ
 ベ対象なわけである。

 これをワンルームに変える。お風呂もなかったので、お風呂を
 入れる。キッチン・トイレは新しくする。設備を現代のものに
 入替えて充実させる。細切れになっていた部屋を統合する。そ
 れが、概要である。

 最優先すべき事項は、単に間仕切りを取り払って居室を広くす
 ることでもなければ、設備関係の配置の仕方でもない。戦前住
 宅からの完全な別れと、記憶の保存である。完全に対立する内
 容であるが、「木っ端微塵に跡形もなく」リノベすることで、
 戦前住宅の在り方と決別するのではなく、手を結びつつ(形跡
 を残しつつ)新たな住まいを創出することにあると思う。平た
 く言えば、過去と現在そして未来の融合。

 さて、述べてきた言葉がどのように空間にノリウツルのか。実
 現した際にはHP上で公開したいと思う。
_____________________________

■編集後記

 設計するのにイチイチ理由なんていらない。と思われる方も

 数多くいらっしゃると思います。

 快適で住み心地が良ければ、コンセプトなんてどうでも良い。

 とされる方も居られると思います。

 それが本当であれば、設計者なんていりません。多分。

 空間は色々な理由や根拠に基づいて創出されます。その理由

 や根拠を見つけ出していくのも設計者の役割だと思います。

 視点をどこに向けるか、視点をどこに持つかによって、一つ

 のリノベにも多くの回答がもたらされることとなります。

 ただ、残念ながら「正解」というものは存在しませんが。

コラム | by muranishi | comments(0)

コメントをどうぞ

空間工房 用舎行蔵 一級建築士事務所
住所:〒602-0914京都市上京区室町通り中立売下がる花立町486
TEL:075-432-3883
FAX:075-334-8051
ALL CONTENT COPYRIGHT 2012(C) KUKANKOBO YOSYAKOZO ARCHITECYS OFFICE ALL RIGHTS RESERVED