■中古住宅の評価制度を確立していき、正当な価格で流通して
いくような仕組みにすることを、現在国土交通省が取組んで
います。今までのスクラップアンドビルド社会からストック
社会へと移行する意図/意思の表われかと思います。
そしてその一方で、世の中には建替えたくても建替えられな
いものもあります。いわゆる「再建築不可」という代物。
一般的に道路に接している敷地の長さが2m以下の場合は
建築基準法上「建築不可」となっています。消防活動が
出来ないとか、防災上問題があるなどの理由からですが、
基準法が出来た昭和25年以前に現存していた上記の建物は
「再建築不可」となるわけです。
理不尽な気もします。防災面からは正当な気もします。
なんとも言えませんが、そのような理由で残っている建物も
事実として、一杯あります。
そんなお話しと少し関連する今回のお話し。
それではどうぞおたのしみください。
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■ある住宅の思考過程(6)
とある、ちっちゃな一軒家(平屋)のリノベーション(以下リ
ノベ)を設計しはじめたところである。
場所は東京の住宅密集地帯。延べ床面積は11坪。築年数は7
0年~80年と想定される、戦前の建物である。
ご要望は、当面はアトリエとして使用し、将来的に賃貸(ワン
ルーム的)に出すというもの。それだけである。
今、何を最優先させるべきかを考えている。
予算の都合上、外観は殆ど手を加えない方針にはなった。まあ、
外観を一新しても、ほぼどこからも見ることが出来ない敷地状
況なので、それはそれでよいと思っている。
下手に手を加えて、張りぼて的な気持ちの悪い新しさに生まれ
変わるよりも、「古い」ということを真正面から受入れて、「
古さ」ありきで設計を進めた方が、今回の場合は総合的に見て
も、良いように思った。「古さ」をどう捉えるかだけの問題で
ある。特にリノベの場合は、何もかも新品が良いとは限らない。
古さと新しさのギャップをどう味方につけるか。若しくは、古
いモノと新しいモノをどう調和させるかが醍醐味となる。
そんなわけで、意識を集中させるのは「中身」である。しかし、
その「中身」で最優先させるべき事項が何なのかを明確にして
おく必要がある。
普通であれば、各部屋の広さや繋がり方、動線や家族の居場所
など、それなりに要望は多岐に亘る。
が、今回はほぼワンルーム的空間。ここでいうワンルームとは、
ワンルームマンションのワンルームという直裁的な意味である。
そのため、空間の繋がりと言えば「部屋/居住空間」と「水廻
り」の相互間でしか作用しない。まあ勿論、部屋と外部の繋が
りなどはあるのだが、内部に限って言えば上述の通りである。
それならば、それで進めればよいというか、それで進めるしか
ないというのが現実ではある。
部屋に光や風を取り入れて、快適な空間とし、水廻りはどこか
に集約して効率化を図るか、居室の採光などの邪魔にならない
場所に配置するなどすればよい。そして総合的にまとまりのあ
る空間に仕上げていけばよい。
単純に考えれば、そうなる。そうなってしまう。
では、そこに「最優先」されていることは何なのか?快適な居
住空間を創造すること。なのか?
いや、それは「最優先」以前の問題でしかない。最優先という
よりも「大前提」でしかない。
その「大前提」を満足させつつ、このリノベで成し遂げるべき
事項が「最優先」させるべき事項なのだと思う。それは、設計
という行為を貫く概念/コンセプトともなる。
この住宅は貸し家として、何十年もの間一つの家族体が住まわ
れていた。最後は老婦人一人となり、公共の施設に移られるこ
ととなったのをキッカケに、持ち主の方が今回のリノベの話し
を持ち上げた。その何十年の間には家族数人で生活されていた
時期もあったらしい。戦前の住宅だから、住環境が素晴らしい
と言うわけにはいかない。しかし、そんな中、3帖・6帖・
4.5帖・3帖という空間構成が、その家族を守ってきた。部
屋数だけで言えば4部屋存在することになるが、広さで言えば
17帖に満たない。それが生活空間の全てである。少し前のコ
ラムで述べた、戦後の公営住宅モデル51C(2DK)が頭を
よぎる。51Cよりさらに狭い。ということは、戦前(戦中)
の住宅モデルの方に近いのか?と思って調べると、「国民住宅」
とされる臨時日本標準規格の「甲3号型(3帖・6帖+台所)」
に毛が生えたような感じであることが分かる。なるほど、戦前
・戦中の住宅とはこういうものだったんだ。と実感が湧く。今
と比べると確かに狭い。しかし、それが一般的だった時代もあ
る。それが現代にまで生き残っている。その一例が今回のリノ
ベ対象なわけである。
これをワンルームに変える。お風呂もなかったので、お風呂を
入れる。キッチン・トイレは新しくする。設備を現代のものに
入替えて充実させる。細切れになっていた部屋を統合する。そ
れが、概要である。
最優先すべき事項は、単に間仕切りを取り払って居室を広くす
ることでもなければ、設備関係の配置の仕方でもない。戦前住
宅からの完全な別れと、記憶の保存である。完全に対立する内
容であるが、「木っ端微塵に跡形もなく」リノベすることで、
戦前住宅の在り方と決別するのではなく、手を結びつつ(形跡
を残しつつ)新たな住まいを創出することにあると思う。平た
く言えば、過去と現在そして未来の融合。
さて、述べてきた言葉がどのように空間にノリウツルのか。実
現した際にはHP上で公開したいと思う。
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■編集後記
設計するのにイチイチ理由なんていらない。と思われる方も
数多くいらっしゃると思います。
快適で住み心地が良ければ、コンセプトなんてどうでも良い。
とされる方も居られると思います。
それが本当であれば、設計者なんていりません。多分。
空間は色々な理由や根拠に基づいて創出されます。その理由
や根拠を見つけ出していくのも設計者の役割だと思います。
視点をどこに向けるか、視点をどこに持つかによって、一つ
のリノベにも多くの回答がもたらされることとなります。
ただ、残念ながら「正解」というものは存在しませんが。
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