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10.09.13 Monday

都市景観~異業種からの視点~

■世の中の研究者(大学教授など)は、実に様々な研究を繰り広

 げています。それがダイレクトに世の中や仕組みに有効に働く

 ものから、それを基盤にして応用することで驚くような成果が

 出るようなものまで。

 そして単純に、底知れない深い知識なり経験を有している方も

 居られます。

 今回はとあるシンポジウムを通して考えた私見を少し書いてみ

 たいと思います。

 それではどうぞおたのしみください。

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■都市景観~異業種からの視点~

 先日、日本不動産学会主催のシンポジウムに顔を出した。

 そんな学会があるとは正直知らなかったし、「不動産」という
 響きに多少尻込みしつつも、モノは試しと思って行ってみた。

 シンポジウムのパネラーはいずれも大学の教授だったり、研究
 所の上層部の方だったり、役所の都市計画策定担当者だったり
 したので、なんともアカデミックで密度の濃い一日だった。

 シンポジウムのお題目は「歴史的景観の保全と経済開発」副題
 が「市場機構を活用した歴史まちづくりの挑戦」と、なんとも
 複雑怪奇なタイトルである。

 要は、不動産的観点からどのような整備なりエリアマネジメン
 トなりが、歴史都市に対して有効であるか?を経済理論も交え
 て討論なり、研究紹介をされるという内容である。

 肝要なのは「歴史都市」つまり、京都や鎌倉などに代表される
 歴史的文化蓄積の長い都市景観は、今後どのように扱っていく
 べきか?を建築的観点だけに留まらず、都市工学・都市計画・
 土木工学・経済学・不動産学など複数の視点から議論された点
 にあると思っている。

 私が普段参加するセミナーなり講演というのは、主に「建築業
 界」という限られた世界/分野/領域での内容なので、個人的
 には「すんなり」と頭に入ってくる。が、今回は「異業種」的
 見解が飛び交う内容だったため、普段使わない領域の脳みそを
 使う内容に非常に刺激を受けた。つまり疲れた。

 そんな内容を逐一ココに書いてみたところで、個人的記録には
 なるが、何の創出にも繋がらない気がするので、書かない。

 逐一は書かないが、異業種視点を聞いた感想を書きたい。

 都市景観というと、完全に建築の分野だと思っていた自分がい
 る。都市計画も建築の分野の一部だし、過去の巨匠を見るまで
 もなく、一人のマスターアーキテクトが一つの都市計画を策定
 していった時代もあるので。

 しかし、実際には「都市」という莫大なエネルギーが密集する
 地域において、「人」が色々な活動をしている。経済活動はも
 とより、芸術活動だったり、福祉活動だったり、教育活動だっ
 たり、活動領域は多岐に亘る。それらをも包括しているのが
 「都市」なのであって、決して「建築」の集合体が、イコール
 「都市」なのではないという、考えれば至極当然の視点を得る
 ことが出来た。

 では、そんな様々な活動が行われる都市に於いて重要なものと
 いうか要素は何か?という視点で見たときは、相変わらず「建
 築」も重要な要素の一つであるのだが、それ以外に「自然景観」
 例えば水辺だったり、山並みだったりという「景観」が存在す
 る。勿論、道路などの交通基盤も重要である。そして、何より
 重要なのは、それらがただ「ある」「存在する」というレベル
 で扱うのではなく、「利用する」「活用する」「価値を見出す」
 という操作によって、「都市の魅力」が俄かに浮き立ってくる
 点にある。

 断っておくが、上述の内容全て、シンポジウムの発表概要など
 ではない。発表を聞いた上でのごく個人的見解というか反応な
 ので、発表者は一言もそんな内容はしゃべっていないことをご
 了承いただきたい。多分以下の同じ。

 「都市景観」を論争するとき、多数決でいくべきか、優れた個
 人の策定プランでいくべきか、議論が分かれるところだと思う。
 しかし、いずれにせよ「論争」する時点で、その都市の景観は
 「おかしい」ということに他ならない。しかも恐らく「極端に」
 おかしい状態が創出されようとしている時にしか、市民なり住
 民の声は高くならない。京都で言えば「京都駅ビル」だの「京
 都ホテル(現ホテルオークラ)」だのといった、大規模開発の
 時のみである。しかし最近は様子が変わってきた。「京町家の
 消失」というすごく個人的な私有財産に対して世間の目が注が
 れ始めている。年間凡そ2%の割合で消失し続けている京町家。
 単純計算でいくと、50年で完全消失する計算となる。ここに
 きて漸く「個」の重要性を誰もが認識し始めたのである。

 世間の声として、今ままでと大きく違う点がある。それは、こ
 れから「創出」されようとする建築に対する議論・論争ではな
 く、今後「消失」されようとしている建築(京町家)に対する
 議論である点である。「進歩」に対する議論ではなく、「衰退」
 に対する議論と言えるかもしれない。

 今までは、どう創れば皆が納得するか?とか、どう創れば街並
 みと足並みを揃えられるか?などといった視点であったと思う。
 でもこれからは、どうすれば残していけるか?という視点が必
 要になってくる。それは重要文化財でもないので、国や行政が
 助成するわけにもいかない。つまり、私有財産を「皆」がどう
 残していくか?を考えるといういまだかつてない議論レベルと
 なる。

 そこにはファンド・寄付・証券化・信託化などといった経済支
 援レベルから、条例規制(緩和)・税制規制(緩和)などとい
 った行政介入レベルなども既に取組みが成されているのも事実
 としてある。だから安心かというと、決してそうではないのが
 実情である。

 ここで、概念の転換が必要となる気がする。

 極論であり、暴論であり、民主主義的ではないことなので、異
 論も続出すると思う。が、敢えて書く。

 概念の転換とは、「町家」の永久凍結。物理的に実現不可能な
 ので、もっと分かりやすく言うと、伊勢神宮の遷宮のように、
 復元を永久に繰り返す。家主が変わった時点だとか、世代が3
 世代交代した時点だとかに。

 誰が何のためにそんなことをしなければならないのか?

 それは、世界人類が長い歴史を歩んできた結果に創造し得た、
 人工的景観の価値の一つをを保存するために。

 シンポジウムで聞いた話の中にこんなものがある。

 コンジョイント分析と呼ばれる、「仮想状態下」でのアンケー
 トを試みた結果が出された。

 アンケート内容は「仮に京町家保存基金に寄付金などをすると
 した場合、いくら支出しますか?」というもの。

 対象は京都市民。結果は一世帯当り2330円。60万世帯が
 存在するので、単純計算で約14億円。

 もう一つのアンケート内容は「京都の街並みを守るために、規
 制を行なう場合の経済支援に対して、いくら支出しますか?」
 というもの。

 全国を対象とするアンケート。サンプル数1200。約38%
 が寄付意思を有し、高さ規制に対する支払い意思額は一人当た
 り543円。デザイン規制に対するものは952円。単純に日
 本人口の半分(6千万人)が支払い能力があると仮定して、そ
 の38%が952円を寄付すれば、約200億。

 この枠を世界に広げると、経済支援的側面は決して実現不可能
 ではないかもしれない。
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■編集後記

 このシンポジウムでは様々な数字が飛び交っていました。

 実はその数字達の「信憑性」が最も重要なところなのですが

 そこを検証できる人は実は誰も居ません。

 机上の理論をフィールドワークに落とし込むことこそが、私

 達実務者がやるべきことがらなのかもしれません。

 シンポジウムで一つ残念だったのは、実務者レベルのパネラー

 が一人しか居なかったことかもしれません。

コラム | by muranishi | comments(0)

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