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10.09.06 Monday

都市を解体する~2010.09~

■需要と供給のバランスを取るというのは、なかなか難しいこと

 かもしれません。しかしながら、そのバランスが取れた社会と

 いうのは、結構理想的だと考えています。

 需要過多になれば、供給側が価格を値上げし、需要過少になれ

 ば、供給側が叩き売り状態になってしまいます。

 どちらもマクロ的にみると、誰も得をしないと思います。

 なぜなら、デフレもインフレも社会の循環を不当なものに仕立

 てていくからです。

 今回は、そんなお話しと微妙に関係するかもしれないお話し。

 それではどうぞおたのしみください。
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■都市を解体する~2010.09~

 都市を解体するシリーズの第三弾を書いてみたい。

 前回の第二弾では、均質化している都市風景が是か否かという
 視点に立って記述した。個人的な答えは「否」であることも述
 べた。

 今回は、「都市縮小」という視点で書いてみたい。

 まず、都市縮小の概念をザックリと説明する。

 1970年代以降の高度経済成長期を経て、バブル崩壊に至る
 まで都市は膨張を続けてきた。作れば売れるという時代。住宅
 も然り。ビルも然り。なにせ、人が増えて経済も上昇気流なの
 で、モノは売れる。数少ない平地も人で埋まり、開発は郊外を
 飲み込み、膨張する。誰も人口が減少するなど考えもしなかっ
 た成長期の出来事である。恐らく、それと相まって、地方は過
 疎化を加速した。都市の膨張と地方の過疎。それは、人の動き
 に伴ったごく自然の流れだったように思う。

 そして2005年をピークに、日本の人口は減少へと転じる。
 21世紀末には日本人口が半減することも、過去のコラムで繰
 り返し述べてきたことである。すると、単純に住宅は空き家と
 なり、ビルは空きビルとなる。これは、避けられない事実だと
 今の時点では思っている。海外からの移住者を受入れない限り。

 そこで「都市縮小」の理屈が登場する。膨張してきた都市は、
 その役目を終えて、縮小する方向に持っていく必要があるとい
 う考えである。コンパクトシティ政策ともリンクする考え方だ
 と思う。

 縮小都市は何も日本だけの話しではなく、ドイツ(特に旧東ド
 イツ)でも実際に行なわれている話でもある。そんな縮小都市
 を実現する手法を考えてみたい。勿論、この分野にも専門家が
 居て、日夜研究されている方々も居られるので、いわば素人的
 立場の私が研究もしないで言える内容でもないのだが、そこは
 グッと目を瞑っていただければ幸いである。

 単純に考えれば、現在の都市の空洞化するであろう部分を、都
 市以前の姿に戻していくというやり方になると思う。実際に研
 究されている方の意見を垣間見ると、空き家地帯をある場所に
 集中させて、そこを公園なり自然の姿に戻していくという論法
 を取られている方も居る。都市以前の姿とは、自然であったり、
 農地であったりする。それを、高度成長期のミニ開発的発想の
 逆で、空いた土地を虫食い状態に自然に戻していくのではなく、
 空いた土地を一部に集約して、丸ごと自然に戻すという考えら
 しい。勿論、一部に集約させるためには、移転も必要だし、そ
 もそも自然に戻す費用の捻出も何かしら必要となる。

 今までは、ミニ開発を例に取るならば、虫食い状態だろうと何
 だろうと、住宅を建てれば売れるので、それが利潤となり、開
 発業者は持続的に開発が出来る資金繰りを可能としてきた。し
 かし、自然に戻すということは、売る相手が居ないので、利益
 も何もありはしない。だから現実問題としては、そこに無理が
 生じる。ということになる。

 では、果たして都市縮小など実際に可能なのだろうか?

 ここからは研究もしていない私のごく個人的意見である。何の
 参考にもならないことを断っておく。

 単純に考えられるのは、都市計画の見直しである。都市計画は
 都市が膨張する前提で策定されてきたと思う。いや、知らない
 が、多分そうだろう。だから、そこをまず見直す必要があると
 感じる。都市計画は大雑把に言えば、商業地域だの工業地域だ
 の住居地域だのと色分けして、ここは商業をするとか、工業を
 するとか、人が住むとかといった具合でエリア分けをした上で、
 容積率だの建蔽率だの高さ規制だのを設定しているものである。
 一般的に商業地域は容積率が高く、住居地域は低い。なので、
 商業地域は建物が密集し、住居地域は密度が低い環境となる。
 これは、土地の価格にも反映される。なので時折発表される路
 線価格というのは、おしなべて商業地域の坪単価がビックリす
 るほど高い。まあ、住居地域でもいわゆる高級住宅街は高いの
 だが、商業地域と比べると桁が違う。

 そう、この容積率の制限を一律に低くしていけば良いんじゃな
 いかというのが私論である。

 すると何が起きるか?

 今まで建てられたはずのものが建てられなくなる。今までの延
 べ床面積を確保しようと思うと、必然的に土地を広く買い取る
 必要が出てくる。高層建築物は軒なみ低くせざるを得なく、住
 宅地も一区画当たりの面積が大きくなる。ユッタリとした都市
 景観を創出できる。

 あれ?それじゃあ、全然都市が縮小しないじゃないか?と思わ
 れた方。鋭い。

 しかしである。容積率と同時に建蔽率を引き下げていくとどう
 なるか?

 そう、一区画における庭なり余白なりの面積が増える。それは、
 土地所有者の負担によって増える。こう書くと、良いことがな
 さそうだが、容積率や建蔽率が下がれば、土地単価が下がるは
 ずである。なので、高密度化する必要はなく、今までと同価格
 で倍くらいの土地が購入できるようになれば、所有者負担は大
 きく変わらない。土地が大きくなるその代わりに、余白が増え
 るということである。この余白に緑地率の考えをセットで導入
 すると、余白が緑地化する。即ち自然の状態に近くなる。街並
 みに緑が増える。面積的な見た目の都市縮小は図れないのだが、
 実質的に密度が低くなることで、都市は縮小する。

 ありえない話しと言ってしまえば、その通りである。いきなり
 所有資産が目減りする政策など誰も受入れない。

 しかし、人口が半減し、その半減した人口が、いわゆる都市部
 に7割も集中するという予測を回避するためには、必要な措置
 だと考える。地方の人口が枯渇する事態をまとめて回避するた
 めの措置である。

 他の手法もある。というか考えだけだが。

 空き家を一部に集中させて、自然化を図るという話しに乗るな
 らば、そこを農地化する。勿論黙っていても農地化は図れない
 ので、そういう都市計画にする。要は、今までの都市計画策定
 と逆の流れを起こす。都市計画は市街化区域と市街化調整区域
 とそれ以外に分けられている。市街化区域とは人が集まる土地
 の利用方法を用途地域を定めて、エリア分けしていく地域。市
 街化調整区域は、それ以前の区域で、平たく言えば建物を建て
 るのを制限/抑制する区域のことである。その区域が今までは
 徐々に少なくなってきたわけだが、それを徐々に増やしていく。 
 都市周辺部から徐々に。

 すると何が起こるか?

 単純に、都市が縮小する。農地は株式会社化した農家的存在に
 売る。食料自給率を上げていくと共に、今までは輸入に頼って
 きた日本の食文化を輸出に転じる。アグリツーリズムも取り入
 れる。日本の食ブランドを、増加しつづける世界人口に対して
 売り込む。要は、都市部周辺を大農場化していく。土地も売る
 ことが出来るし、自然もよみがえる。一挙両得である。

 なーんて、そんなに上手くはいかない。とも思う。全然検証も
 していないし(できないし)、数々の障壁があるであろうこと
 も予想できる。でも、何かしら手を打つ準備をしておくべき時
 代に来ている気がする。今までの社会基盤・社会構造・社会政
 策を根こそぎ思考転換しなければ、今まで通り「後追い」の政
 策なり計画なりになって、ろくなことがない。

 さて、色々書いては見たものの、私論の領域を出ることは、残
 念ながら、ない。

 あとは、建築的見地から都市縮小をどう捉えるかを、次回考え
 てみたいと思う。
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■編集後記

 都市縮小を通して、需要と供給のバランスが取れるようになれ

 ば、それはそれで理想です。

 ただ、そこに「古くて価値のあるもの」の存在を絡めて考えて

 いく必要もあったりします。

 単に古いものを壊す。新しいものから残していく。というスト

 ックの取り方は必ずしも望ましいカタチとは考えていません。

 あちらを立てれば、こちらが立たず。というやり方ではなく、

 総合的にバランスの取れたやり方が、今後必要となってくると

 思っています。

 非常に抽象的過ぎて、なんのこっちゃサッパリな編集後記です

 が、今の頭の中はそんな状態です。

 もう少し整理出来たら、もう少しわかりやすく書けると思いま

 す。いつになるかはわかりませんが。

コラム | by muranishi | comments(0)

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