空間工房 一級建築事務所

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10.08.16 Monday

狭小住宅考

■その時の時代や時勢により、それまでは考えもしなかったモノ

 が生まれることがあります。携帯電話などその最たる例です。

 でも実際に陽の目を見るまでには水面下で色々と試行錯誤され

 実用化され、時間を掛けて広く行渡る/浸透するのだと思いま

 す。社会的ニーズが上手く噛み合った瞬間に、爆発的に広まる

 というのも実際にあるかと思います。

 建築の様式や形式が爆発的に広まった例としては、マンション

 が挙げられるかもしれません。良し悪しはともかくとして。

 さて、今回は狭小住宅について少し。ブームは過ぎ去ったよう

 な気がしていますが、書いてみました。

 それではどうぞおたのしみください。
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■狭小住宅考

 果たして何坪の敷地や建築面積から「狭小住宅」と呼ぶのかは
 定かではないが、少し狭小住宅について考えるところを書いて
 見る。

 今に始まった話しではなく、もう10年程前から雑誌などには
 取り上げられたり、特集を組まれたりしている狭小住宅。

 遡れば、増沢洵氏の「最小限住宅(1951年)」(9坪ハウ
 スの元祖)や東孝光氏の「搭の家(1966年)」が思い浮か
 ぶ。搭の家に至っては、敷地面積20平米(約6坪)に地上5
 階地下1階という構成。これに比べれば、雑誌などで取り上げ
 られる狭小住宅は大きく感じてしまう。

 まあ、そんな特例は置いておくとして、一般的に敷地面積40
 平米(約12坪)以下程度であれば、狭小住宅と言っても差し
 支えないかと思う。

 そんな住宅。例えば単純に12坪の総2階建てとしても、延べ
 床面積は24坪。マンションで80平米といえばそれ程狭くな
 いイメージかもしれないが、戸建住宅となると、階段が必要だ
 ったりするので、「広い」とは言い難い状況かもしれない。何
 せ1フロアにつき24帖の計算なので。

 となると、なんでもかんでもを詰め込むわけにはいかなくなる。
 何かを排除したり、有効な使い方が出来るプラン創りが重要と
 なってくる。

 家族3人程度であれば、無理しなくてもプランは成り立つかも
 しれない。しかし、4人家族以上となると、結構厳しい。

 24坪と言えば、48帖。その内2帖×2(1階と2階)=4
 帖を階段に占拠されるとすると、残り44帖。お風呂と洗面に
 其々2帖づつ占拠されれば、残り40帖。玄関とトイレに其々
 1帖割くとして、残り38帖。LDKに15帖割り当てるとし
 て、残り23帖。主寝室に6帖・収納に2帖として残り15帖。
 子供室に4.5帖・収納1帖として、残り9.5帖。2部屋目
 が必要となれば、残りは4帖。それが廊下になったり、収納に
 なったりする。

 さて、一見問題なく納まる感じではある。が、本当に並べるだ
 けなら問題ないが、実際はそんなに上手くいかない。各部屋に
 は窓も必要だし、個室を通らずに別の個室に行くには、結構廊
 下も必要だったりする。なので廊下のない/不要な居室の配置
 は必須かもしれない。しかし、並べただけの空間は「面白み」
 に欠ける。もっと言えば、生活が苦痛になる。

 優れた狭小住宅とは、単に狭いところに部屋を効率良く並べた
 だけではない「何か」が空間に備わっているものだと思う。

 その「何か」とは、狭さを感じさせない工夫だったり、一種の
 潔さだったりする。なんとなくだが、ある種の「覚悟」を持っ
 て住みこなすという、住まい手側の努力も必要になってくる気
 がする。

 土地価格の上昇に伴い、このような狭小住宅がメジャー化して
 きたと思われるが、人が生活していくうえで本当に必要なもの
 は何か?を追究し、贅肉を削ぎ落とした空間構成が、狭小住宅
 には反映されているものと思う。

 広いに越したことはないし、覚悟を持って生活などもしたくな
 い。それが普通の考えだと思う。でもそれが出来ない理由があ
 るからこその住宅の有り方なのだと思う。

 今まで、敷地面積が10坪代の住宅を設計したことはない。し
 かし、実際はこう思う。敷地面積と必要な部屋のバランスによ
 っては、広い敷地でも狭小住宅的思考は必要だ。と。

 即ち、敷地面積が広くても、必要な諸室が多ければ、単純に納
 まらない。どう納めていくかを検討するのは、狭小住宅と何ら
 変わりないアイデアや工夫が必要となる。と思う。

 無駄を省けば、広く使える空間が増える。これは物理的にそう
 かもしれない。しかし、それだけでは結局「面白み」に欠ける
 空間が出来上がる恐れもある。その辺りの兼ね合いが非常に難
 しくもあり、楽しくもあるのが、建築なのだと思う。

 極端な話し、ワンルームマンションだと最低20平米もあれば、
 一人で生活する分には支障ない。人数が増える分だけ加えてい
 けば4人家族でも80平米で数字的にはクリア可能である。が、
 設計者にそんなのを誰も求めていない。突き詰めていけば、「
 豊かに」暮らす手立てを求められている、ということだと思う。
 であれば、狭小住宅だからと構える必要はなく、そういったカ
 テゴリー分けも無用だと思うのである。

 その敷地に、どうすれば最大限の魅力とポテンシャルを有する
 建築が出来るのか?を考えることが、当たり前だが最も大切な
 ことだと思っている。

 狭小住宅考と題しておきながら、狭小住宅に対する考察は皆無
 な内容であるのが恐縮である。

 まあ、広く感じるためにガラスの仕切りを使うとか、スキップ
 フロアにするとか、各室に扉を設けないとか、窓を大きく取る
 とか、外部空間とうまく融合させるとか、実際は色々手法はあ
 るのだが、それらはあくまで「小手先」的な手法なので、あま
 り重要とは思っていない。

 重要なのは、手法ではなく、大筋を流れる/貫く理念だと考え
 ている。
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■編集後記

 10年程前は確かに狭小住宅ブーム全盛期だった記憶があり

 ます。雑誌などの媒体が、そのブームを煽る感じがしないで

 もありませんでしたが、こんな狭い土地にこんな住宅が建っ

 た!という珍しさ加減と、社会のニーズが噛み合った瞬間だ

 ったのかもしれません。

 土地価格の上昇も頭打ちとなり、ニーズは下火になっている

 気がします。実際はどうなのか知りませんが。

 一方で、狭小ワンルームマンションが少し流行っています。

 狭さを色んな手法を使って克服する。その手法には感服しま

 すが、全ては経済理論優先の産物のような気がします。

 良し悪しは別としてですが。

コラム | by muranishi | comments(0)

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