空間工房 一級建築事務所

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10.08.09 Monday

アグリツーリズモ

■まだまだ知らないことが多すぎる。そう思った瞬間は誰しも

 経験があることだと思います。

 つい最近、私もそんな経験をしました。

 とあるセミナーにおいてです。まあ、建築系のセミナーなの

 ですが・・。

 今回はそんなことを忘れないためにも書いておきたいと思っ

 てのコラムです。

 それではどうぞおたのしみください。
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■アグリツーリズモ
 
 とあるセミナーに行ってきた。

 京都府立大学助教授の宗田好史氏によるセミナー。

 タイトルは「イタリア世界遺産物語~人々が愛したスローなま
 ちづくり~」というものだった。学芸出版主催。

 今回はその概要を忘れないように書き留めておくことにする。

 世界遺産。イタリアが世界最多の登録数を誇っている。201
 0年現在でその数44。因みに日本の登録数は14。順位も1
 4位。アジアで最多は中国の40。順位は3位。ついでだから
 2位も挙げておくと、スペインで41。

 とかく日本は観光と結びつけてしまいがちだが、イタリアは決
 して観光資源目当てに登録を目指しているわけではない。では、
 何が目当てか?世界遺産を「人類の遺産」として捉えている。
 なので、登録して、その風景や都市を丸ごと後世に残して行き
 たいという発想である。

 因みに、宗田氏曰く、イタリアは観光客は減らしていきたいと
 考えている。観光客の量よりも質を上げることに政策は転換を
 図っているところだ。とのこと。なので、世界遺産=人類の遺
 産というストレートな想いの下に、登録に熱意を持っていると
 いう。

 世界遺産と一言に言っても、内容は多岐にわたる。大きく分類
 して、「文化遺産」「自然遺産」「複合遺産」「危機遺産」の
 4種類がある。文化遺産の中にも「歴史都市(群)」「文化的
 景観」などの概念があり、結構複雑だったりする。因みに私は
 全てを把握していないので、これ以上述べることができない。

 イタリアはその中でも「歴史都市」の登録が今までは多くある。

 ヴェネティア・フィレンツェ・アッシジなどその数18。よく
 耳にする都市名からあまり知らない地域まで色々。

 しかし最近は、「文化的景観」登録に力を入れているという。
 オルチャ渓谷などが有名。

 この「文化的景観」。理念としては、地域住民が理解・連携し、
 持続可能な景観のあり方をもたらしているという登録基準があ
 る。新しいものを造るという考えの人と古いものを残していく
 という考えの人が対立するのではなく、歴史的風景や景観をど
 のように保存・存続させていくシステムが構築されていて、実
 際に実践できているかが重要なのである。

 京都も景観条例が3年前に施行された。当初、建築業界や一部
 住人からは「足かせ」のように扱われ、批判・反対の声が多く
 あった。まあ、今でも全くないわけではないが。要はそのよう
 な条例や規則に則り、今後にわたり持続可能な景観保存の仕組
 みが成されることが、どうやら重要らしい。

 そして、話しはスローシティ・スローライフ・スローフードへ
 と移っていく。

 数年前から良く耳にする言葉である。スローほにゃらら。

 スローフードが分かりやすいので、一例を挙げる。発祥はイタ
 リア。1980年代半ば、ローマにあるスペイン広場(映画ロ
 ーマの休日で有名な、階段のある広場)でマクドナルドが出店
 することになった。一部市民団体から猛反発を受けての出店。
 イタリアの食文化(パスタ・チーズ・ワインなど)がファース
 トフードによって追いやられるんじゃないか?という危惧を持 
 った市民が、ファーストフードに対抗する意味で「スローフー
 ド」の運動を起こしたのがきっかけとされている。要は、地域
 のものを大切にしようじゃないか的な思想だと思う。地産地消
 的意味合いも勿論有していると思う。昔の建物・伝統的建築を 
 大事にするというのもスローほにゃららの理念だと思う。

 そんな中、イタリアは農村という地域の小都市に着目し始める。
 このままでは無くなってしまう農村や農業活動の風景。それを
 再生できないか?という視点である。

 農業体験ができるように、農家や納屋を改装して宿泊施設にし
 たり、スローフードを提供したり、美しい田畑の風景を楽しん
 で貰ったりという動きを通して、農村を再生する。

 これがアグリツーリズモの思想である。農業は英語でアグリカ
 ルチャー。旅行がツーリズム。合せてアグリツーリズモ(イタ
 リア語)。日本ではグリーンツーリズムと呼ばれたりする。こ
 の思想自体はヨーロッパ各地で今や一般的となっている。

 そんな動きと世界遺産登録を組み合わせる手法。

 農村に旅行客が訪れることで、地域が活性化しつつ、風景が再
 生・保存される仕組みを確立し、最後に世界遺産登録でとどめ
 をさす。という感じの流れ。

 壮大な計画である。

 実際、これでジリ貧だった農村・風景は再生を果たすのだから、
 恐るべし「アイデア」である。

 もっと言うと、土地土地で生産される農産物が「ブランド化」
 し、農地自体の価値が上がり(土地価格の上昇)、観光客が増
 加し、経済も活性化しているとのこと。

 では、出資者は誰か?色々いるが、最も多いのは地元の銀行。
 そしてEU連合。国の出資はスズメの涙程度。

 地元が潤ってこそ、地方銀行も潤う。という理屈である。

 そこには、確かな経済活動も隠されてはいるのだが、それを凌
 駕する風景や体験が確かに存在する。

 いや、このシステムを真似ればよいという意味で書いたわけで
 はない。そうそう簡単にはいかないと思うので。

 そうではなく、「創造」と「保存」を対立させる構造ではなく、
 「保存」を通して「創造」が行なわれているという事実に着目
 したいと思った次第である。

 「創造」優先ではないところが肝。だと思っている。

 京都も景観条例の見直しが進められている。緩和する地域と強
 化する地域の見直しなども含めて。

 そもそも景観条例って、建前では歴史的風景を残すためとか言
 っているが、本音は観光客動員数を確保するためのものじゃな
 いの?と個人的には思っている。施行当初は半ばお仕着せがま
 しい条例だなと思っていた。色や形を指定するなよ。と思って
 いた。でも、一方で確かにどんどんまちなみは壊れていくとい
 う、寂しさもあった。強制的に規制を掛けないといけないかも
 という思いもあった。

 なので、基本は賛成である。しかし、上っ面だけ整えたってダ
 メという思いがある。造る人・住まう人・設計する人それぞれ
 が、本当の意味で、まちなみを残して行くんだという強い思い
 が備わらない限り、いつまでたってもトップダウンの鬱陶しい
 条例に変わりはない。そうではなくて、市民から発するまちな
 みのあり方が実は必要なのではないかと思うのである。

 そうなった時、いわば張りぼての景観を脱却し、本質を伴った
 建築が持続的に創造されていくのではないかと思う。

 意識の改革がそこには必要だが、一朝一夕にはいかないという
 事実もあり、経済活動という本質もあったりする。

 景観条例はあくまで、意識改革のきっかけかもしれない。その
 先に見えてくるものが、明白となった時、一気に民意の賛同が
 得られるような気が今はしている。
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■編集後記

 強引にまとめた感もありますが、まとめ部分は私的意見の塊

 ですので、無視してください。

 日本でも一部、アグリツーリズモ的動きが出てきています。

 きっと20年も経たない内に、メジャー化することでしょう。

 ただ、日本人は流行に敏感な一方で飽きやすさも兼ね備えて

 いる気がしますので、それが一過性のブームに終わらないで
 
 いてくれると嬉しいと個人的には思います。

 自分で作った料理は美味しいもの。なので、自分で作った農

 作物もきっと美味しいでしょう。

 将来、日本の食糧自給率の回復に一役買う日が来るかもしれ

 ませんね。

コラム | by muranishi | comments(0)

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