空間工房 一級建築事務所

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10.08.02 Monday

建築に何が出来るか?(2)

■世の中は坂本龍馬ブーム。ということで、坂本龍馬の記念

 500円硬貨も各地で売り切れ状態若しくは品薄状態のよう

 です。大河ドラマによる経済/観光への影響は凄いものです。

 恐らく長崎も凄いことになる/なっていると思います。

 京都も、とある施設は凄いことになっていましたので・・。

 さて、そんな話しと微妙に関係があるような、ないような

 今回のコラム。

 それではどうぞおたのしみください。
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■建築に何が出来るか?(2)

 何が出来るシリーズの第2弾である。

 前回は「歩くまち」のために何が出来るか?という視点で書い
 た。

 ただ、中途半端な終わり方をしていたので、今回も引き続き書
 いてみる。

 4年前、長崎でまさしく「まち歩き」の博覧会的な催しがあっ
 た。その名も「長崎さるく博’06」。「さるく」とは、長崎
 の方言で、意味は「ぶらぶらする」。ちなみにこの催しは、今
 も続いている。一時の博覧会にとどまらず、持続可能性を有し
 た稀な博覧会のケースである。と思っている。

 4年前の開催にあたり、この博覧会のコーディネーターの目論
 見はこう述べられている。

 「現在の都市は、人と記憶が乖離している。都市とは、人間の
 営みがあってこそ成立するはずなのに、今や都市がバーチャル
 化している。移動は車や電車で点と点を行き来するデジタル的
 な動き。その点と点の間にあるものは存在しないに等しい。そ
 うではなく、歩くことでまちに感情移入し、まちを肌身で感じ
 ることができれば、都市を面で捉えることが出来る。そうすれ
 ば、あるべきまちの姿やまちが持つ歴史・街並みの意味・記憶
 がヨミガエル。だから歩く。見物型の観光ではなく、体験型の
 まち歩きこそが、これからの観光である。」

 いや、実際は全然違う言い回しで述べられている。勝手に私が
 解釈し直した部分もかなりある。しかし、概要は外していない
 つもりである。

 では、実際の「まち歩き」活動によって何が変わったか?

 個人的に、一番の収穫は、そこに住んでいる人。即ち長崎市民
 が自分のまちを再発見し、誇りに思い、この「まち歩き」運動
 を今も継続している点にあると考える。

 勿論、最初は観光客の増加が目的だったし、実際に博覧会によ
 って観光客動員数は減少から増加に転じた。それだけ魅力的な
 催しだったのだろう。が、通常の博覧会のように、新しく何か
 をつくったわけでもなんでもなく、ただ現存する街並みの歴史
 (成り立ち)を解説し、様々なコース(42コース)を設けた
 に過ぎない。設けたに過ぎないとは言っても、それはそれで大
 変である。解説にあたったのは、地元の老若男女500人。そ
 れだけ集めるだけでも大変だと思う。しかも、ツアーは参加者
 が複数だろうが、一人だろうが、解説員が同行するという徹底
 ぶり。簡単に真似はできない。

 京都市内にも観光客は一杯いらっしゃる。でも長崎のような案
 内員が充実しているとは思えない。修学旅行生相手のボランテ
 ィア団体だったり、タクシーの運転手だったり、バスガイドさ
 んだったりするが、基本移動は「タクシー」か「バス」。街中
 でガイドブックを片手に「まち歩き」をしている方も見かける
 が、相手はガイドブック。「生」の声ではなく、活字である。

 まあ、以上は主に「観光」に重心を置いた話しなので、建築的
 な話しとは程遠いかもしれないが。

 ただ、こう思うのである。

 「長崎さるく」という一つのきっかけを通して、長崎市民・住
 民がそれまでよりも、まちに思い入れを持ったという事実。建
 築が何をしたわけでもないが、建築なしには成しえなかったの
 も事実。まちなみは、建築単体の集合なので。

 さて、それでは「既存」のまちなみではなく、「これから」の
 まちなみを考えた時に出来ることは何か?出来ることが、ある
 のかないのか。

 まちなみは観光のためにあるのではない。結果として観光に一
 役買ったとしても。ということは、観光客の喜ぶまちづくりを
 第一義に目指すのは、言うまでもなく本末転倒である。あくま
 で、その地域の住民が、その土地に根ざすことが最優先事項で
 ある。住人が歩いてたのしいまち。若しくは歩きたくなるまち。
 それが理想であり、絶対的に必要な要素だと思う。

 そんな視点に立ったとき、建築を媒介とした興味の対象が潜ん
 でいて欲しいと思うのである。歴史は非常に重要な一つの要素
 であることは否定できない。歴史を通して、未来を見る人もい
 るだろう。歴史を通して100年前や300年前にタイムスリ
 ップする人も居るだろう。そこに文化を見る人も居るかもしれ
 ない。でも、「これから」の建築に歴史を期待するのは酷であ
 る。なぜならこれから歴史を刻んでいくしかないので。

 では、歴史以外に興味の対象はないのか?

 いまや全国各地、総イオンモール化・アウトレットモール化の
 様相を呈している。「消費都市」である。昔は「生産都市」だ
 った。そこで何かが作られたり、そこで何かが産み出されると
 いう「興味」があった。栄枯盛衰を繰り返しつつも、何かを産
 み出し続けた。しかし今では、グローバル化(の経済競争)に
 よって、より生産コストの低い海外へアウトソーシングといっ
 たことが、避けられない状況にある。これは、これからも変わ
 らないと思う。いや、ひょっとしたら100年後に、日本が「
 人件費の安い国」として、今の新興国化するのかもしれない。
 嬉しくもないが。ただ、グローバル化により、中国・インド・
 ブラジルが世界に台頭してきていることを考えれば、有り得な
 くもない。単純に日本の相対的経済順位が下がると考えれば。
 であるが。

 流石に突拍子もない考えであると同時に、そこまで何もしない
 で待っても居られないと思うので、生産的な思考に戻す。

 国は「観光立国」を唱えている。2008年には「観光庁」も
 設立された。2008年の「世界の旅行・観光競争力ランキン
 グ」データによると、日本は世界で23位である。ちなみに1
 位はスイス。アジアの最高位は14位の香港。アジアだけで言
 えば日本は香港に次いで2位である。

 「大自然」という固有の観光資源のある国が上位に並び、それ
 らに混じる形で「歴史」のある「まちなみ」が美しいんだろう
 な~と思える国が目立つ。まあこのランキングは71項目から
 なる評価基準順位を基に算出されているので、「それだけ」が
 順位に直結するわけではないのだが。

 知らないうちに、また「観光」視点になってしまった。

 再度元に話を戻す。

 建築的視点から魅力的なまちなみを考えた時、何かを創造して
 いる姿が見えたり、誰かが住んでいる気配が感じられたり、「
 人」の存在がまちに対して感じられる空間のあり方が、良いん
 じゃないか?と今はなんとなく思うのである。

 通りに対してオープンにする。なんて今の時代では考えられな
 い。というのが現在の常識かもしれない。なぜそうなってしま
 ったのか?そのあたりを個人的に考えてみたい。「そりゃ、防
 犯面でだよ」とか「プライバシー面でだよ」とかはあるだろう。
 でもそれ以外に何かあるのでは?と思うのである。それを排除
 すれば、もしかするとできるかもしれない。地域に開かれた建
 築の姿が。

 一つの街並みは、ある時代の制度や風習が形成してきた。だか
 ら個性を持っていた。故に、他所の都市を歩けば、自分の都市
 にはない情景に興味をそそられたり、非日常という「旅行気分」
 を味わえたりできるのだと思う。固有だったものが平均化・均
 質化していくのは、今の時代の流れなのかもしれない。が、き
 っとその土地の個性を深く読み解けば、建築にできることはあ
 ると思う。それが、非効率的だったり、非経済的だったりする
 のは良くないが、合理的で経済的なだけがベストとは思わない。

 もう少し考えたい。
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■編集後記

 とある本によりますと、横軸を時間。縦軸を繁栄度合い。と

 した場合、企業の成長カーブも生物の成長カーブも植物の成

 長カーブも似たようなS字の軌跡を描くそうです。

 それは恐らく避けて通れない「種」の成長カーブと言われて

 います。ということは、「国」も同様。

 日本がS字カーブのどの地点に居るかは知りませんが、その

 カーブは繰り返されるそうです。

 きっと建築にもなんらかの成長カーブといいますか、平たく

 言えば建築の場合、デザインの「流行廃り」があるものと思い

 ます。でも「生き残る」デザインも確かに存在します。

 何が生き残るかは、後になってみないと分かりません。

 優れたデザインが必ずしも生き残るとは限りませんので。

 更新可能なデザインが、実は一番強いのかもしれません。

コラム | by muranishi | comments(0)

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