空間工房 一級建築事務所

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10.07.21 Wednesday

動線と動面

■ようやく梅雨が明けたと思った途端、攻撃的な太陽の熱に戸惑

 いを隠せない今日この頃です。

 つい一週間前は、通勤途中で眼にする鴨川も警戒水位を越える

 ほどに「氾濫」目前の荒れ具合でしたが、今は子供達の水遊び

 場に戻った感じです。

 一つの現象で、一つの風景がこうも変わるのか?と思った次第

 でもあります。

 こじつけ気味ではありますが、建築においても同様のことが言

 えそうです。

 さて、どんな現象がどんな違いをもたらすのか?

 それではどうぞおたのしみください。
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■動線と動面

 少し大枠な感じのコラムが続いたので、今回は一つの建物レベ
 ルに立ち帰った内容を少し。

 とある本「住まいの解剖図鑑/増田奏著/エクスナレッジ発行」
 を読んで、印象に残った内容について書き進めてみたい。

 この本、特に建築専門家でなくとも、スラスラと読み進めるこ
 とが出来る内容であり、建物の基本を理解できる構成になって
 いる。しかし、私が見つけたのは、いつもの本屋のいつものコ
 ーナー「建築専門コーナー」である。一般書として分類されな
 いところが、歯痒い。内容的には充分「一般書」なのだが。専
 門書コーナーに置いてあるのは、私の行く本屋だけなのかもし
 れないが、もし全国的にもそのような置き方がされているなら、
 少し勿体無い気がしている。まあ余計なお世話だが。

 ただ、私も最近知った事実として、フィンランドやイギリスで
 は、小学校のカリキュラムに「建築」を結構詳細なレベルでレ
 クチャーするらしい。アメリカでも絵画や音楽と同じようなレ
 ベルで建築を教える授業が組み込まれているらしい。日本では、
 恐らく家庭科の授業で「サラッ」と触れるだけ。まあ私が中学
 の頃の記憶なので、エラく前の話し。今はどうなっているのか
 全く知らないのだが。

 そう考えると、というか、そう考えなくても、少なくとも「住
 宅」は常時触れる/生活する場所である。音楽や絵画よりも頻
 繁に接する機会が否応無くある。であれば、小さい頃からその
 基本くらいは知っておいても然るべき内容だという気もする。
 学問と捉えるから何だか専門化していくのであって、生活に密
 着した事象と捉えれば、全ての人に知る権利と義務があるよう
 にも思うのだが、果たして私だけだろうか?

 前置きが長くなったが、とりあえず気軽に読めるそんな本を読
 んでいて、一つ「コレは!?」と思った内容に触れてみたい。
 この本、特長として「イラスト」が多い。なので、文章だけで
 上手く説明がつくかどうかは、非常に怪しい。というか、全く
 もって自信はない。その点はご容赦願いたい。

 コレは。と思ったのは、「動線と動面」に関する記述である。

 動線(どうせん)とは、空間を人が移動する際の軌跡だと捉え
 て問題ない。動線の良し悪しは、住宅の場合は特に日常生活に
 ダイレクトに跳ね返ってくる。例えば、家事動線。家事をする
 際、キッチンと洗濯場が近いとか、洗濯場と物干し場が近いと
 か、物干し場と洗濯物をたたむ場所が近いとか、たたむ場所と
 仕舞う場所が近いとか、近ければ便利な作業の関係が色々ある。

 作業の関係とは空間の関係に置き換えられる。その間の移動距
 離が短かったり、合理的だったり、ストレスが少ないほど、一
 般的には良い動線計画とされる。各作業は一人で行なうのか、
 複数で行なうのかによっても変わってくるが、概ね日常的に行
 なわれる/営まれる生活を考えた時、その各々の動線が重なら
 ないとか、複雑に交錯しないとか、整理されている場合、家の
 中で家族同士がぶつからなくても済んだり、一つの作業工程を
 短時間で終わらせることが出来たりする。

 動線は何も家事動線だけではなく、例えば来客時の動線と家族
 の動線をどう分けるかだったり、施設や店舗であれば、スタッ
 フと来客の動線をどう分けるかだったりする。家に帰って来て
 から、各個室に至る経路や、各個室からトイレに行く経路だっ
 たり、動線は人の動き毎に存在するのである。

 それらを整理したり、統合したりするのも設計の一つの重要な
 ポイントであり、空間配置にも少なからず影響を与える要因と
 なる。

 これは、極一般的な内容なので、どんな設計者でも考慮/配慮
 している。図面の中に入り込み、各生活者になりきって、色々
 な作業をしてみたり、お風呂に入ったり、仕度をして出掛けた
 りする。時に平面図に鉛筆で人の動きをなぞる。

 このように、動線とは重要であり、一般的である。

 が、この本に書いてあったのは「動面」。聞き慣れないどころ
 か、恥ずかしながら初耳だった単語である。

 内容は、動「線」という一次元的なものを、動「面」という二
 次元的なものに置き換えて考えるというもの。

 即ち、「部屋」を一単位として、部屋同士の繋がりを限りなく
 単純化していくと、最終的にどのような形態に収束するかを探
 るといった内容である。

 例えば、一般的な住宅平面を考えた時、部屋同士は廊下で繋が
 れ、その部屋は行き止まりである。仕切っているのは壁若しく
 は建具。その壁をなくし、建具(出入口)のみで空間同士が繋
 がれた状態を考える。すると、その平面形状が如何に複雑であ
 ろうと、一方向のみの出入口で繋がっている場合は、動面は穴
 のない一つの平面に収束する。(言葉だけなので、読んでいる
 方は全く理解不能かと思う。)

 要は、ワンウェイアクセスの場合、どんなに複雑な繋がり方を
 していても、一筆書きで玄関を出発すれば、全部屋を通って、
 玄関に帰って来れると思っていただければ良い。その一筆書き
 を、紐だとすれば、広げれば一つのワッカになる感じ。

 一方、一箇所でも2方向アクセスが可能な部屋があったとする。
 その瞬間、一筆書きで玄関スタート~玄関ゴールをする方法は
 3通り存在することとなるのである。

 本当に?と思われた方。試しに四角形の中央に半円を描いて見
 て欲しい。左上を玄関だと仮定して、玄関から入り、真ん中の
 半円を通って、玄関に戻ってきてみて欲しい。その際、半円の
 直線部分に出入口があると仮定して。

 すると、半円の直線部分に到達した経路を通って戻る方法と、
 逆側を通って戻る方法、到達した経路とは逆からアクセス且つ
 戻る方法の3通りがあることが分かる。

 試しに半円の一部を、四角形のどこか一辺に接するカタチで置
 いてみると、3通りの経路は存在しなくなる。一杯「線」は描
 けるとしても。

 これが「コア」という概念である。とこの本では記されている。
 個人的には「なるほど~」と思った。読まれている方は「?」
 若しくは、「それがどうかした?」と思われるかもしれないが。

 しかし、これは基本。このような2ウェイアクセスが様々な部
 屋で現れ出した時、動線のあり方は一気に増幅する。場合によ
 っては、すごく便利になる。ただ、出入口前には物が置けない
 ので、場合によっては不便にもなる。

 これらを一言で言い表せば「ツリー型」と「ネット型」となる。

 ツリー型とは、樹木の枝のように「行ったら戻る」しかない感
 じ。ネット型とは、蜘蛛の巣のように、回遊性のある感じ。

 実は、日本古来の民家はおしなべて「ネット型」だった。各部
 屋は、極端な話し、四方が障子や襖で仕切られているだけ。ど
 こからでも入ってきて、どこへでも抜けていける。それが便利
 か不便かは別として。

 しかし、今の住宅はおしなべて「ツリー型」である。これも便
 利か不便かは別として。

 極端な「ネット型」はたまた極端な「ツリー型」というのでは
 なく、その融合というか、中間領域的な部分を探って、平面計
 画を進めるのが良いのではないか?と直感的且つ個人的に思う
 次第である。「動面」のあり方を、その部屋の用途や、使う人
 数によって、使い分ける/使いこなすことが、快適な空間/空
 間構成の一助となるような気がする。

 これからも、その辺りを視野に入れつつ、設計にフィードバッ
 クしていきたいと思っている。
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■編集後記

 偶然ではありますが、現在名古屋で実施設計を進めております

 住宅のリノベーション。随分前のコラムでも触れましたが、

 熟考の末「コア型」のプランをご提案したところ、受入れて

 いただきました。

 「コア」の利点を前面に押し出した空間/住環境となる予定

 です。

 また工事が着工しましたら、その様子を当HP上で公開致し

 ますので、ご興味のある方は、そちらもおたのしみに。

 担当は相方です。

コラム | by muranishi | comments(0)

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