■ようやく梅雨が明けたと思った途端、攻撃的な太陽の熱に戸惑
いを隠せない今日この頃です。
つい一週間前は、通勤途中で眼にする鴨川も警戒水位を越える
ほどに「氾濫」目前の荒れ具合でしたが、今は子供達の水遊び
場に戻った感じです。
一つの現象で、一つの風景がこうも変わるのか?と思った次第
でもあります。
こじつけ気味ではありますが、建築においても同様のことが言
えそうです。
さて、どんな現象がどんな違いをもたらすのか?
それではどうぞおたのしみください。
_____________________________
■動線と動面
少し大枠な感じのコラムが続いたので、今回は一つの建物レベ
ルに立ち帰った内容を少し。
とある本「住まいの解剖図鑑/増田奏著/エクスナレッジ発行」
を読んで、印象に残った内容について書き進めてみたい。
この本、特に建築専門家でなくとも、スラスラと読み進めるこ
とが出来る内容であり、建物の基本を理解できる構成になって
いる。しかし、私が見つけたのは、いつもの本屋のいつものコ
ーナー「建築専門コーナー」である。一般書として分類されな
いところが、歯痒い。内容的には充分「一般書」なのだが。専
門書コーナーに置いてあるのは、私の行く本屋だけなのかもし
れないが、もし全国的にもそのような置き方がされているなら、
少し勿体無い気がしている。まあ余計なお世話だが。
ただ、私も最近知った事実として、フィンランドやイギリスで
は、小学校のカリキュラムに「建築」を結構詳細なレベルでレ
クチャーするらしい。アメリカでも絵画や音楽と同じようなレ
ベルで建築を教える授業が組み込まれているらしい。日本では、
恐らく家庭科の授業で「サラッ」と触れるだけ。まあ私が中学
の頃の記憶なので、エラく前の話し。今はどうなっているのか
全く知らないのだが。
そう考えると、というか、そう考えなくても、少なくとも「住
宅」は常時触れる/生活する場所である。音楽や絵画よりも頻
繁に接する機会が否応無くある。であれば、小さい頃からその
基本くらいは知っておいても然るべき内容だという気もする。
学問と捉えるから何だか専門化していくのであって、生活に密
着した事象と捉えれば、全ての人に知る権利と義務があるよう
にも思うのだが、果たして私だけだろうか?
前置きが長くなったが、とりあえず気軽に読めるそんな本を読
んでいて、一つ「コレは!?」と思った内容に触れてみたい。
この本、特長として「イラスト」が多い。なので、文章だけで
上手く説明がつくかどうかは、非常に怪しい。というか、全く
もって自信はない。その点はご容赦願いたい。
コレは。と思ったのは、「動線と動面」に関する記述である。
動線(どうせん)とは、空間を人が移動する際の軌跡だと捉え
て問題ない。動線の良し悪しは、住宅の場合は特に日常生活に
ダイレクトに跳ね返ってくる。例えば、家事動線。家事をする
際、キッチンと洗濯場が近いとか、洗濯場と物干し場が近いと
か、物干し場と洗濯物をたたむ場所が近いとか、たたむ場所と
仕舞う場所が近いとか、近ければ便利な作業の関係が色々ある。
作業の関係とは空間の関係に置き換えられる。その間の移動距
離が短かったり、合理的だったり、ストレスが少ないほど、一
般的には良い動線計画とされる。各作業は一人で行なうのか、
複数で行なうのかによっても変わってくるが、概ね日常的に行
なわれる/営まれる生活を考えた時、その各々の動線が重なら
ないとか、複雑に交錯しないとか、整理されている場合、家の
中で家族同士がぶつからなくても済んだり、一つの作業工程を
短時間で終わらせることが出来たりする。
動線は何も家事動線だけではなく、例えば来客時の動線と家族
の動線をどう分けるかだったり、施設や店舗であれば、スタッ
フと来客の動線をどう分けるかだったりする。家に帰って来て
から、各個室に至る経路や、各個室からトイレに行く経路だっ
たり、動線は人の動き毎に存在するのである。
それらを整理したり、統合したりするのも設計の一つの重要な
ポイントであり、空間配置にも少なからず影響を与える要因と
なる。
これは、極一般的な内容なので、どんな設計者でも考慮/配慮
している。図面の中に入り込み、各生活者になりきって、色々
な作業をしてみたり、お風呂に入ったり、仕度をして出掛けた
りする。時に平面図に鉛筆で人の動きをなぞる。
このように、動線とは重要であり、一般的である。
が、この本に書いてあったのは「動面」。聞き慣れないどころ
か、恥ずかしながら初耳だった単語である。
内容は、動「線」という一次元的なものを、動「面」という二
次元的なものに置き換えて考えるというもの。
即ち、「部屋」を一単位として、部屋同士の繋がりを限りなく
単純化していくと、最終的にどのような形態に収束するかを探
るといった内容である。
例えば、一般的な住宅平面を考えた時、部屋同士は廊下で繋が
れ、その部屋は行き止まりである。仕切っているのは壁若しく
は建具。その壁をなくし、建具(出入口)のみで空間同士が繋
がれた状態を考える。すると、その平面形状が如何に複雑であ
ろうと、一方向のみの出入口で繋がっている場合は、動面は穴
のない一つの平面に収束する。(言葉だけなので、読んでいる
方は全く理解不能かと思う。)
要は、ワンウェイアクセスの場合、どんなに複雑な繋がり方を
していても、一筆書きで玄関を出発すれば、全部屋を通って、
玄関に帰って来れると思っていただければ良い。その一筆書き
を、紐だとすれば、広げれば一つのワッカになる感じ。
一方、一箇所でも2方向アクセスが可能な部屋があったとする。
その瞬間、一筆書きで玄関スタート~玄関ゴールをする方法は
3通り存在することとなるのである。
本当に?と思われた方。試しに四角形の中央に半円を描いて見
て欲しい。左上を玄関だと仮定して、玄関から入り、真ん中の
半円を通って、玄関に戻ってきてみて欲しい。その際、半円の
直線部分に出入口があると仮定して。
すると、半円の直線部分に到達した経路を通って戻る方法と、
逆側を通って戻る方法、到達した経路とは逆からアクセス且つ
戻る方法の3通りがあることが分かる。
試しに半円の一部を、四角形のどこか一辺に接するカタチで置
いてみると、3通りの経路は存在しなくなる。一杯「線」は描
けるとしても。
これが「コア」という概念である。とこの本では記されている。
個人的には「なるほど~」と思った。読まれている方は「?」
若しくは、「それがどうかした?」と思われるかもしれないが。
しかし、これは基本。このような2ウェイアクセスが様々な部
屋で現れ出した時、動線のあり方は一気に増幅する。場合によ
っては、すごく便利になる。ただ、出入口前には物が置けない
ので、場合によっては不便にもなる。
これらを一言で言い表せば「ツリー型」と「ネット型」となる。
ツリー型とは、樹木の枝のように「行ったら戻る」しかない感
じ。ネット型とは、蜘蛛の巣のように、回遊性のある感じ。
実は、日本古来の民家はおしなべて「ネット型」だった。各部
屋は、極端な話し、四方が障子や襖で仕切られているだけ。ど
こからでも入ってきて、どこへでも抜けていける。それが便利
か不便かは別として。
しかし、今の住宅はおしなべて「ツリー型」である。これも便
利か不便かは別として。
極端な「ネット型」はたまた極端な「ツリー型」というのでは
なく、その融合というか、中間領域的な部分を探って、平面計
画を進めるのが良いのではないか?と直感的且つ個人的に思う
次第である。「動面」のあり方を、その部屋の用途や、使う人
数によって、使い分ける/使いこなすことが、快適な空間/空
間構成の一助となるような気がする。
これからも、その辺りを視野に入れつつ、設計にフィードバッ
クしていきたいと思っている。
_____________________________
■編集後記
偶然ではありますが、現在名古屋で実施設計を進めております
住宅のリノベーション。随分前のコラムでも触れましたが、
熟考の末「コア型」のプランをご提案したところ、受入れて
いただきました。
「コア」の利点を前面に押し出した空間/住環境となる予定
です。
また工事が着工しましたら、その様子を当HP上で公開致し
ますので、ご興味のある方は、そちらもおたのしみに。
担当は相方です。
td> |