■ 設計には融通の利かない要素が3つほど存在します。
一つは法的な制約。一つは敷地の大きさや形・向き。
そしてもう一つは予算。です。
それら3つの要素/条件のうち、最も関心が高いのは、
やはり予算ではないでしょうか?どんな建物がいくらで出来
るのか?その判断基準は何なのか?何を手掛りにすればよい
のか?
建築を進める上で、大概はまず最初に気になるところであり
最後まで気になる点でもあると思います。
今回はそんなお話しを少し。
それではどうぞおたのしみください。
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■坪単価
先日、とある建築相談会に建築家の立場として参加してきた。
その中で、来訪者から質問が多かった事項について書いておき
たいと思い、今回のコラムである。
住宅を建てよう!と思った時、何が一番気掛かりになるのか?
それは人によるのだが、多くの方は「一体、工事費はいくらか
かるのか?」というところからスタートする。
間取りや外観が、いくら自分の好みでも、予算がオーバーして
いれば、それは「絵に描いた餅」でしかない。全ては「予算」
という枠/条件に納めて初めて現実味を帯びてくる。
世間一般に言われる「坪単価」。一坪はだいたい畳2帖分の広
さである。なので、この「坪単価」は、総工費を延べ床面積で
割った金額として表される。
ここで言う「延べ床面積」。計算根拠の大きなファクター/要
素である。一般的に延べ床面積とは、法的な面積をいう。
では、法的な面積とは一体何か?
例えば2階建てを例に取る。1階の床面積と2階の床面積の合
計である。と言ってしまえば、非常に簡単。実際そうなのだが。
法的には上述の通りである。しかし、吹抜けがあったり、バル
コニーがあったりすると、「施工床面積」は微妙に変化してく
る。
なぜなら、吹抜けやバルコニーは「法的」な延べ床面積には算
入されないからである。しかし、実際には吹抜けは「床」がな
いだけで、壁も天井も存在する。バルコニーはほぼ床と手摺だ
けではあるが、実際にバルコニーを施工しようとすれば、それ
だけの手間や材料費がかかる。
それらの面積が小さければ、そんなに大勢に影響はしない。し
かし、大きな吹抜けや広いバルコニーがついていると、影響し
ないとは言ってられない。見た目/数字上の延べ床面積が同じ
でも、吹抜けやバルコニーが大きければ、必然的に坪単価は上
がる。
何をもって「坪単価」と称するのか。そこが重要である。
さらに、住宅設備機器や照明器具・エアコンの有無・外構工事
の有無/広さなどによっても大きく変わる。
例えば延べ床面積が30坪の住宅を考える。キッチンが90万
なのか、150万なのかで、どれ位坪単価に影響するかを見て
みる。
90万円なら、90万円/30坪=3万円/坪。150万円な
ら150万円/30坪=5万円。そう、それだけで坪単価は2
万円UPする。
しかし、それが50坪の住宅ならどうなるか?90万円/50
坪=1.8万円/坪。150万円/50坪=3万円/坪。UP
額は1万2千円である。
設備機器自体のUP額は面積によらず、60万円。でも坪単価
に換算した途端、UP額に差異が生じるのである。
なので、同じ個数をつけるとした場合、面積が小さくなる程、
坪単価はUPする。狭小住宅の坪単価がUP傾向になる一つの
要因であると言える。
さらに。照明器具を含むのか否か。エアコンを含むのか否か。
お風呂の仕様はユニットバスなのか否か。外構工事の範囲が広
いのか狭いのか。サッシは多いのか。建具は多いのか。造作家
具の多さは?
そんなことを挙げ出すとキリがない上、それらの有無によって
坪単価はいくらでも上がる/下がる。のである。
そこに「坪単価」比較の落とし穴がある。
A社では全て込みで、坪単価60万円。B社では全て別途で、
坪単価40万円。
さて、貴方ならどちらを選びますか?
全て込み。全て別途。という重要な情報が伏せられていたとす
れば、答えは聞くまでもなく「B社」。と答える人が大半だと
思う。
全く同じ仕様とした場合、この「坪単価」表現には注意が必要
である。なぜなら、「別途」金額により、最終金額はB社の方
が高くなる恐れが隠されているからである。
このように「坪単価」とは、非常に曖昧な基準で表現されてい
る。面積の大きさ・面積の取り方・別途の有無・設備機器の高
い安いなど、非常に多くのファクターがあるにも関わらず、一
律に「坪単価」として表現されてしまうのである。
確かに、何か基準/目安がないと判断のしようがない。その意
味で「坪単価」はその目安としては非常に分かりやすい。あく
までも見た目は。であるが。
でも実際は、一つ一つの材料や手間の積み重ねで、工事費は決
定する。というか算出される。その材料単価が高ければ、それ
は単にボッタクリであるし、手間が高ければ、それ相応の職人
さんが現場で働いていただかなければ、ウソである。
なので、「坪単価はいくらですか?」と問われても、正直困る。
私達が設計するのは、工場生産品ではなく、現場での一品生産
品なのである。高くも出来れば、ある程度安くも出来る。それ
が正直なところである。
建築工事費とは、一般の方には非常にブラックボックス的な感
じで、分かりにくい/不安。と思われている方が殆どだと思う。
世間一般の材料費の単価からして分からない。なので、いくら
明細の見積りを出されても、それが高いのか安いのかが分から
ない。窓の数量位は数えれば分かるが、壁の数量など明記され
ていても、それが実際と比べて正しいのか間違っているのかな
どは余程時間を掛けない限り分からない。
車のようにパッケージされた価格であれば、日本全国同じ定価
がついているので、それが高いか安いかは別として、安心出来
る。エンジンの部品一つ一つの値段が高いのか安いのかなどを
考える人はまずいない。一台いくら。これで、話が通る。建築
と同じで、数え切れないパーツ/部品や手間・輸送コストなど
がかかっているにも関わらず。
しかし住宅に定価はない。ハウスメーカーや建売りは別として。
そこに不安と分かり難さがつきまとうのだと思う。
そういった不安や分かり難さを解消する立場として、設計者を
利用すれば良いと思う。その設計者が信用出来ないなら話は別
だが。設計者は材料単価を把握している。数量もCADで算出
できる。手間の相場も知っている。なので、出てきた詳細見積
りさえあれば、それが正当か否かは判断できるのである。
最終的に重要なのは「坪単価」ではない。トータルコストであ
ると思っている。そして、トータルの性能であり、質であると
思っている。
「坪単価は50万円ですよ」というのは、たやすい。多分やれ
ば出来る値段である。しかし、それで出来上がった空間に果た
して満足して貰えるのかどうか。そこはまた別問題である。
多くの方が望まれているのは、安くても質の高いもの。だと思
う。それは重々承知である。が、良いものは高い。というのが
住宅に限らず、モノの値段/価値ではないだろうか。そこを理
解いただければ、打つ手は持っている。つもりである。
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■編集後記
それでは、お宅が実際にやられた住宅の坪単価はいくらですか
?という質問の答えをこのコラムでは一切書いていません。
その「坪単価」が独り歩きするのが、危険だからです。
今までの実例では、50万円代の住宅もあれば200万円代の
ものもあります。というのが正確です。これは全て込みの価格
です。詳細はHPに掲載しております。
50万円代が安い。200万円代が高い。これは子供でも解り
ます。数字はわかりやすいので。でも50万円代が悪い。20
0万円台が良い。という結論にはなりません。どちらもそれ相
応の良さがあると思っています。
空間に何を求めるか?で坪単価も変動します。
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