■振り返ってみれば、「あれが運命の分かれ道」なんてことが
人生の中には多数存在しているのかもしれません。
その岐路に立った時、何が活きてくるのか。そんなことを考
えさせられるようなエピソードを今回は書いてみたいと思い
ます。
皆さんは、「運命の分かれ道」を経験されたことはあります
か?
特に建築とは直接関係のない話しではありますが。
それではどうぞおたのしみください。
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■運命を変えた15分
今回は相方より聞いた話しを少し。
又聞きなので、想像やフィクション、はたまた妄想も交じるこ
とが予想されますが、お許しください。
登場人物は、奥山清行氏。プロダクトデザイナーの話しである。
この奥山氏。今では日本に戻って自分のデザイン会社を設立さ
れている。何で有名か?と聞かれれば、恐らく「フェラーリ」
のデザインをされたことで有名。一時期、NHKなどでも特集
を組まれて紹介されていたこともあるので、知っている人は知
っている。知らない人は、知らない。当たり前だ。
フェラーリ以外にもポルシェやマセラッティもデザインされた
経緯がある。そんな経験をフェラーリの会長が買って、「今ま
でにないフェラーリのデザイン」を奥山氏に依頼された時の話
しである。
フェラーリといえば、車の王様。まあ異論があるかも知れない
が、車好きな人ならば、分かってもらえるかと思う。今ではラ
インにのっけて、工場で生産されるようになっているようだが、
フェラーリの基本精神としてあったのは、全て手造り。職人に
よる一品生産である。それだけに、機械でできない細かなパー
ツの創りこみから、流れるような美しいシルエットを実現出来
る特長を持っている。車というよりも、一種の美術品。眺めて
いるだけでも、飽きることはない。それでいながら、走り出せ
ば怪物と化す。止まっても良し、走っても尚良し。なのである。
そんなフェラーリ。それをデザインする機会が奥山氏に訪れた。
採用されるとは限らない。一種のデザインコンペである。奥山
氏は、それこそ心血を注いで、そのチャンスに全力を傾けた。
今までの経験・ノウハウを掻き集めることは勿論のこと、新し
いデザインとは何かを探求しつつ、スケッチを描きまくる。デ
ザイナーにとっては千載一遇のチャンスである。ぬかりはない。
気負いはある。
かくして、一つのカタチに辿りつく。
どんなデザインだったかは、残念ながら知らない。しかし、奥
山氏の中では「今までにないフェラーリ」と確信しての最終形
であったことは間違いないと思う。
そして、いよいよ会長へのプレゼン。
結果は・・・?
「あまり、斬新ではないね~。期待していたんだが。」
・・・玉砕。
あらゆる方向から可能性を探求し、想像力を膨らませ、スケッ
チを描きまくり、「これだ!」と思えたデザイン。しかし、結
果は無残な一言に収束する。
会長と懇意にしている側近。昔から奥山氏に目をかけてくれて
いた側近。その方が一言、奥山氏に声を掛ける。
「会長がヘリで飛び立つまでに、15分だけ、お茶に誘う。そ
の15分をお前にやる。」と。
もう失うものは何もない状況。その15分で奥山氏は紙に向か
う。自分がなぜ、車のデザインを志したか。何を表現したかっ
たか。その原点。自分が目指した原点。自分の礎となった原点。
その原点を一枚のスケッチに表現する。今まで誰も見たことが
ない車のデザイン。フェラーリという既成概念からは程遠いデ
ザイン。
15分後、ヘリが飛び立つ前の会長にそのスケッチを見せた。
会長は奥山氏に向かって一言。
「やれば、できるじゃないか。」
かくして、奥山氏のデザインしたフェラーリが出来上がる。日
本人として初めて、フェラーリに関わった誕生秘話。
そんなウソみたいな、ホントの話しである。
後日談で、奥山氏はこう語る。
「あの15分は、自分の運命を変えました。でも、与えられた
のは、『あの15分』ではなく、それまで自分が過ごしてきた
時間全てだったのだと思います。」
即ち、今までの思考や経験に費やしてきた時間の積み重ねがあ
ったからこその15分だったという意味だと思う。
運命を変えたのは、確かに15分だったかもしれない。しかし、
ほんの15分やそこらの時間で、「凄い案」がひねり出せる訳
がない。常々の思考や創造・想像がない限り、運命は15分で
は変わらない。
私達設計者にも共通する内容だと思う。最終案が頭に浮かび上
がるのは、極端な話し、30分かもしれない。しかし、それは
常に考え続けているからであって、白紙状態から30分で妙案
が浮かぶことはない。如何に普段から思考し続けているか。そ
こが大事なんだと思う。
なぜ、いきなりフェラーリの話しになったのか。それは、とあ
るお施主様がフェラーリを買われたから。
自分が設計した空間に、フェラーリが停められているというこ
とだけでも、私達には充分に刺激になるのです。
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■編集後記
鳩山政権の交代です。「普天間基地」の移設対応が鳩山首相
の運命の分かれ道だったような気がします。
沖縄にそのような「問題」があることを、日本中の人が知っ
た機会になったという意味では、意義があったかもしれませ
んが、期待を持たせるだけなら何もしない方がマシかもしれ
ません。まあ、色々と困難なのは分かりますが。
そしてW杯。まもなく開幕です。サッカーファンとしては、
日本が予選突破することは難しいことが分かっています。
これまた、今までの時間の過ごし方。日本サッカーの歴史が
試される時でもあります。W杯に出られるだけでも、実は凄
いんですけれど。でも出る以上、期待はしてしまいます。
各選手個人の積み重ねてきた時間が、本番で爆発しますよう
に。サッカーも運命はほんの5分で変わります。
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