空間工房 一級建築事務所

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10.06.02 Wednesday

ある住宅の思考過程(4)

■ストレートに正解に辿りつく。それが出来れば理想です。

 何事もそうだと思いますが、設計も同じです。

 時に無駄だと知りながら。時に余計なお世話と知りながら。

 時にもがき、時にあがき、挙句の果てに正解に辿り着けない。

 そんなことも日常茶飯事です。

 試行錯誤と言ってしまえばそれまでですが、そんな4文字には

 納まらない思考過程が存在します。

 今回はシリーズ化の第4弾。

 ある住宅の思考過程をお届けいたします。

 それではどうぞおたのしみください。
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■ある住宅の思考過程(4)

 現在、名古屋である住宅のリノベーション設計を着手した。

 一回目のプレゼンが終わったばかりである。

 今回は、この住宅の思考過程について少し触れてみたい。

 リフォームとなるかリノベーションとなるかのせめぎ合い途中。
 なので、結論はまだ出ていない。途中経過に過ぎないのだが、
 非常に重要な局面と思っている。設計を進めていく上で、何を
 優先すべきか。そこを焦点に話しを進める。

 今回は2階建ての鉄骨造。一戸建ての住宅をリノベする。対象
 は1階と外部廻り。2階は状態も良好なので、現状のままとし
 て手は加えない。

 リノベには大きく分けて2つのスタートラインがあると感じて
 いる。

 一つは、長年住み慣れた住宅を改造するもの。

 もう一つは、中古住宅などを買って改造するもの。

 この2つには大きな差異がある。前者は思い入れや家族の歴史
 が刻まれている。後者は特別思い入れはない。

 後者の場合、設計の進め方はシンプルである。定められた外郭
 の中で、如何により良い住環境を設えて行けるかに的を絞るこ
 とが出来る。そこで営まれてきた生活と、新しく住まわれる方
 の生活には何の接点もないため、引き継ぐ/継承すべき内容は
 特にないと考えて差し支えない。極端な話し、内装や間仕切り
 を全部取り払って一旦内装を「更地」状態にした上で、一から
 取組めば良い。

 しかし前者の場合は、そのような考え方は危険というか、慎重
 になるべきである。なぜなら、そこで過ごされたご家族の記憶
 が、いたるところに蓄積されているからである。柱一本にも思
 い入れや思い出が隠されているかもしれないのである。設計者
 である私達は部外者である。どこにどのような記憶が残ってい
 るかは、聞いてみないと分からない。なので、聞いた上で、残
 すべきもの/空間は残し、手を加えても良い箇所に手を加える。
 という作業が重要になってくる。

 今回は、そんな後者のパターンである。ご要望は、仏間でもあ
 る和室を残す。南からの陽射しを北にあるリビングにまで届け
 る。水廻りも含めて、空間全域の温度差を極力少なくし、温度
 のバリアフリーを実現する。といった内容。

 水廻りの位置はほぼ同じ。和室も手を付けず、リビングの領域
 もほぼ同じ。ご要望に忠実に進める。南に位置する和室の光を
 リビングに届けるべく、仕切りは透過性のものに変える。リビ
 ングの北窓を大きくして、全天空照度による外光を取込む。リ
 ビングの仕上げを工夫して、今とは雰囲気を変えて落着いた調
 子にする。

 頂いたご要望の中で、可能な限りの挑戦を試みる。

 そして、一つの案に辿りつく。というか、辿りついた。

 これで良いと思えれば、何の問題もない。ご提案するのみであ
 る。

 が、設計者として「引っかかり」を感じてしまった。設計者の
 性である。出来上がったプランを遠目に見てみる。太陽の動き
 を考える。そこでの生活に想像を巡らしてみる。

 やはり腑に落ちない。何がいけないのか。少なくともご要望は
 恐らく満足出来ていると思う。でも、多分これでは私達の存在
 意義がない。私達の存在意義とは、ご要望を満足することに加
 えて、ご要望を越えるご提案をすることに他ならない。余計な
 お世話と言われてしまえばそれまでである。が、多分この案で
 は、単なるリフォームに終わってしまう。

 リフォーム=あまり間取りを変えずに内装をキレイにする感じ。

 勿論、それでも良いのかもしれない。が、根本的な概念を「良
 い方向に」変えることができるのならば、それこそが私達に望
 まれていることであり、私達が時間を掛けるべきところなので
 はないかと勝手に思っている。

 かくして、余計なお世話となるかもしれないが、ベストと思わ
 れる方向性をご提案することにした。ただ、「和室に手を加え
 ない」という大きな大きな大前提を覆してしまう案である。ハ
 イリスク。ひょっとするとノーリターンかもしれない案。

 リノベーションである。大々的に間取りを変える。ベストと思
 われる日の入れ方。領域の配置(ゾーニング)。風の流れ。回
 遊性。温度のバリアフリー。気配の伝わる空間構成。シンプル
 に。心地良く。落着き、寛げる。そんな空間。

 仕上げ材の変更/更新によって得られるであろう刷新感よりも、
 空間の仕切り方そのものによって得られる快適性。今の外郭が
 有するポテンシャルを最大限活かした構成。

 これは、前述の「内装を更地にする」方法に基づいているのか
 もしれない。というか、恐らくそうだろうと思う。なので、余
 程のことがない限り、「思い入れのある場所」に敢えて手を加
 えることはしない。今回は、その「余程」にあたる。

 一回目のプレゼンは終わった。

 ご要望の内容をまとめたものと私達のご提案。幸い、私達のご
 提案が、即却下されることはなく「思いもつかなかった案で、
 驚いています。」「どちらにするか悩む程に、提案内容に魅力
 を感じます。」と仰っていただいた。場合によっては、設計依
 頼そのものを破棄される覚悟で臨んだプレゼンである。なので、
 ひとまず土俵に残していただいたことに感謝である。

 京都の東山・南禅寺界隈に各界の大物が構える別荘地がある。
 所有者は野村財閥や住友財閥、松下グループ(松下幸之助)な
 ど。一敷地あたり、実に5000坪。庭の手入れは10人の庭
 師が365日管理する。建築も見事。庭も見事。京都御所にあ
 る迎賓館をも凌ぐ美しさだと個人的には思っている。これだけ
 の別荘を維持管理するのは、それなりの資力が必要なのも当然
 だが、それ以上に「思い入れ」がないと続かない。

 終戦直後、その中の一つがアメリカの進駐軍の住居として没収
 された。内装はアメリカ仕様に変えられた。美しい和風建築が、
 タイル貼りやフローリングに改装された。主の思い入れを踏み
 にじるかのように。

 そして時に所有者/主は変わる。多分、資力面で。つい最近、
 その別荘の一つがアメリカ人の手に渡ったらしい。誰かは知ら
 ない。しかし、今回は庭師なども従来出入りしていた方々がそ
 のままメンテナンスにあたるようにしたらしい。「和」の有す
 る美しさをそのまま引き継ぎたいという「思い」があるからに
 違いない。

 私達設計者は、決して前者であってはいけない。後者たるべき
 である。それを自覚/認識した上での、今回のリノベご提案で
 あることを最後に書き加えたい。

 結果はまた後日、お伝えすることにしたい。
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■編集後記

 これからは、更にリノベーションを手掛ける機会が増えるもの

 と思います。なんとなく。いや、多分時代の流れとしてですが。

 そろそろ京町屋のリノベーションを手掛けてみたいと密かに思

 っています。これ以上京町屋を減らしてはいけない。という思

 いもありますし、自分自身が京町屋で生まれ育ったという思い

 入れもあります。

 いつの日か、このシリーズで京町屋のリノベをお伝えできる日

 が来るといいですね。(と、自分に向かって発言してみる。)

コラム | by muranishi | comments(0)

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