空間工房 一級建築事務所

HOME > MESSAGE
10.05.31 Monday

アクセルとブレーキ

■今から20年前、自動車教習所に通っていたとき教官に聞かれ

 たことがあります。

 「車の操作で、一番重要なのは何だと思う?」

 で、私が答えたのは「ブレーキです。」でした。

 これに対して教官は「正解。ハンドル操作でもなければ、縦列

 駐車でもない。ブレーキを踏むことが一番重要。」

 さて、今回は車の話しではありませんが、アクセルとブレーキ

 について少し。

 「車」では一番重要なブレーキ操作。それが壊れたら・・・?

 それではどうぞおたのしみください。
_____________________________

■アクセルとブレーキ

 ある構造家と話しをしていた時の話しである。

 一般の方には馴染みが少ないかもしれないので、構造家につい
 て少し説明をしておく。

 いわゆる建築家と呼ばれる人は、主に「意匠」の設計をする。
 建築の設計にも色々と分野がある。プランを考えたり外観をデ
 ザインしたりというのは「意匠」設計の分野である。そして、
 その建物の構造強度を検証したり、柱や梁の大きさを強度的側
 面から決定したりするのが「構造」設計の分野。木造の2階建
 て住宅程度であれば、特に構造計算は必要なく、国の定めた告
 示に則って壁の配置や長さを決めていけば良いともされている。

 なので、構造設計事務所と協働で設計を進めていくのが、一般
 的かと聞かれれば、必ずしもそうではないかもしれない。そし
 てもう一つは「設備」設計。これは、空調や照明はもとより、
 防災なども含めて設計する分野である。ある一定規模以上の建
 物は、必ず設備設計の資格を有する人が設計に携わらなければ
 いけないルールになっている。

 そんな構造設計を担うのが、構造家。構造はデザイン面にも大
 きく影響してくるので、私達は必ず構造家と組んで仕事をして
 いる。

 で、ある構造家と話しをしていた時の話しである。

 その構造家、業界では有名。要は一定以上の技術・思考・解析
 能力に優れているということ。だと思っている。

 とある有名な建築家と仕事をされた時の話しを聞いた。

 「普通、建築家は自分なりのアクセルとブレーキを持っている。
 アクセルとはアイデア・発想力。ブレーキとは自制心。でも、
 その建築家のブレーキは壊れている。アクセルしかついていな
 い。普通なら構造的立場からブレーキを踏む場合がある。でも、
 その建築家ならアクセルだけでも快適なドライブを楽しめる。
 どんどん行け!という気持ちにさせる。」

 とある有名な建築家とは、プリッカー賞を受賞されたSANAAの妹
 島和代氏である。

 その話しを聞いて、ある意味「衝撃」が走った。

 普通、誰しも知らず知らずにブレーキを踏む。「こんな構造に
 したら持たないだろう」とか「これは普通に考えて、お施主様
 から却下されるだろう」とか「完全に要望/条件を逸脱してい
 るな」とかといったレベルから、「常識的に考えてありえない」
 とか「どう考えても技術的に無理」とか「法規的に不可能」と
 いったレベルまで、色々とブレーキを踏む。

 でも、妹島氏にはそのブレーキがない。「常識を非常識化させ
 る」とでも言おうか。「既成概念を無力化する」とでも言おう
 か。多分そんな感じ。アクセル全開。

 きっと、いつぞやのコラムでも書いた「JustAsk」と「アポロ
 13号」を組み合わせた感じ。ダメかどうかは聞いてみなけり
 ゃわからないし、どうやったら不可能が可能になるかに神経を
 集中させるのみ。だから常にアクセル全開。

 全ての責任は自分に跳ね返ってくる。なので、人はブレーキを
 踏む。踏んでしまう。無意識に。安全のため。これは至って健
 康的な考えだと思う。決して後ろ向きなブレーキではないとは
 思う。が、全ての責任を負えるまでに確信的にアクセルを踏み
 続ける勇気には勝てない。と思うのである。

 顕在意識(意識)と潜在意識(無意識)の考え。これは心理学
 者であるフロイトが発見したもの。騎手と馬に例えられるのだ
 が、顕在意識=騎手。潜在意識=馬。騎手によって進む方向や
 速度が決定される。若しくは氷山にも例えられる。顕在意識=
 氷山の一角。潜在意識=海の中にある氷山。

 きっと妹島氏は、顕在意識の方が「デカイ」のではないか?と
 思ってしまう。無意識に踏むブレーキを無視して、意識的にア
 クセルを踏む。などと考えたりして。

 「常識に捉われない」ことは重要である。そこは常に意識して
 いるつもりである。でも知らない内に、潜在意識が抑止力とし
 て働いてしまっているのかもしれない。

 潜在意識を意識することが可能かどうかは知らないが、その辺
 りも意識しながら設計に取組んでいきたいと思う。

 恐る恐るアクセルを踏むのではなく、アクセルをベタ踏みする
 位のレベルに達した時、何かを突き抜けられるような気が、今
 はしている。
_____________________________

■編集後記

 騎手が「やれる」と判断すれば、馬も「やれる」方向に進む

 そうです。逆も然り。勿論、実際の乗馬の話しではなく、意

 識の話しですが。

 その意味でも顕在意識の持ち方は大切だと思っています。

 そしてその積み重ね/意識の持続も大切だと思っています。

 「やれる」という方向性/目指すべき到達点に間違いがない

 ことが大前提ですが。

 そしてアクセルとブレーキの話し。普通、経験を重ねるほど

 ブレーキの比重が高くなるような気がします。そこを堪えて

 アクセルの比重を高くする。これは顕在意識をしっかり持っ

 ていないと、とても出来ないことだとも思っています。

 自分が今、アクセルを踏んでいるのかブレーキを踏んでいる

 のか。常に意識していきたいと思います。

コラム | by muranishi | comments(0)

コメントをどうぞ

空間工房 用舎行蔵 一級建築士事務所
住所:〒602-0914京都市上京区室町通り中立売下がる花立町486
TEL:075-432-3883
FAX:075-334-8051
ALL CONTENT COPYRIGHT 2012(C) KUKANKOBO YOSYAKOZO ARCHITECYS OFFICE ALL RIGHTS RESERVED