■歴史を塗り替えることはできます。
新たな歴史の一ページをつくることもできます。
でも、歴史を変えることって出来ると思われますか?
なんだか怪しい話しだな~と思われた貴方。普通の感覚だと
思います。
でも世の中には凡人では考えられない/発想できないことを
サラリと言ってのける人がいることも事実です。
決して怪しいマジシャンなんかではありません。
さて今回は目からウロコのお話し(私にとってですが)を少し。
それではどうぞおたのしみください。
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■ある建築家の言葉(10)
シリーズ化でお送りしているコラム。今回は、記念すべき2桁
目である。(単に10回目というだけなのだが。まあ、取りあ
えず自分に弾みをつけるという意味で、2桁突入!といってみ
た。)
突然ですが、皆さんは「歴史」と聞いて何を思い浮かべられま
すか?
今、流行りの幕末。という方もおられれば、ローマ時代などの
世界史。三国志が活躍した中国史。はたまた卑弥呼の時代まで
・・。それこそ人それぞれにイメージされる時代があることと
思います。
建築の世界にも「建築史」という分野が存在します。世界の建
築を時系列的に並べたり、日本の建築様式を見比べたり、はた
また日本と世界の同時代の建築を比較したりしながら、過去の
設計事例を勉強/研究するというもの。
私達の大学時代にも建築史の授業がありました。主にスライド
を見ての学習。過去から近代まで順を追って建築様式や建築に
対する思想の生い立ち/流れを学ぶというものでした。学校に
よって建築史に力を入れるところと入れないところがあるかも
しれません。しかし、どんなに力を入れないとしても、近代以
降で最も強調される建築家「ル・コルビジェ」や「ミース」に
触れない学校/先生はいないかと思われます。
コルビジェは近代建築5原則を発案したことでも有名ですし、
安藤忠雄事務所で飼っている犬の名前になっていることでも有
名です。(あまり有名じゃないかもですが)
5原則とは「自由な平面」「自由な立面」「ピロティ」「横長
窓」「屋上庭園」の5つ。建築学科の学生なら嫌でも耳にする
内容です。そしてその5つを体現しているのが、フランスにあ
る「サヴォア邸」。建築学科の学生なら誰もが一度は訪れたい
と思う建築かと思います。
私も大学院時代に研究室の仲間3人とフランスを訪れた記憶が
あります。(仲間3人の内1人は、今の設計事務所の共同代表
でもある河野ですが・・。腐れ縁ってやつですか?って誰に聞
いているのかは自分でも不明ですが)
残念ながら、その時はサヴォア邸まで足を伸ばす余裕が、時間
的にも金銭的にもありませんでした。今思えば、行っておけば
良かったと臍を噛む思いです。
さて、今回の建築家の言葉は、そのコルビジェ氏から少し。
とあるインタビューで「あなたにとって歴史とは何ですか?」
と聴かれた際に答えられた内容。
曰く「歴史とは新しいことを成すことである。」
このたった数文字のやり取りだけでも、コルビジェが凡人でな
いことがお分かりいただけるかと思う。
少なくとも私には、そのような答えは思いつかないし、考えが
及びもしない。
私(=凡人)が「歴史」と聞いて思いつくのは「過去」の出来
事にすぎない。
しかしコルビジェは「歴史」を自分の懐に手繰り寄せた上で、
「未来」を見ているのである。若しくは、自分も「歴史」の一
員であることを自覚しているのである。
歴史とは決して過去の出来事なんかではなく、脈々と受け継が
れていく時間の蓄積の繰り返しであって、自分も数年後・数十
年後・数百年後には、その歴史に取り込まれる。だから「新し
いことを成す」ことで歴史を刻む必要があり、決して過去の模
倣や真似をしていてはいけない。という意味だと思う。
脱帽である。
歴史なんぞは変えられない。と思うのが普通であると思う。
しかし、未来にとっての現在は確かに過去であり、歴史である。
であれば、「歴史は変えられる」とも言えるのではないだろう
か。
歴史を替えることがイコール偉業。であるかどうかは、別の話
しではある。戦争なんて偉業でもなんでもない。と思う。
しかし、新たな価値創造や新たなパラダイム(モノの見方や捉
え方)を発案/発見していくことは、間違いなく偉業であると
思う。
コルビジェが発案したのは近代建築5原則だけではない。モデ
ュロール(人間が片手を挙げた絵=人体の寸法と黄金比から作
った建造物の基準寸法の数列)然り、集合住宅然り。(正式に
は違うかもしれませんが)である。
確かに「新しいことを成した」と言える。少なくとも、建築/
設計業界への影響は多大であることは間違いない。
新しいことを成せるか成せないかは別としても、歴史は決して
過去のものではないことを意識する必要があるように思った。
今という時代は未来に繋がっている。特に建築は、その射程距
離が長い。一度建つと商業建築でもない限り、数十年先まで建
ち続ける。ということは、数十年先の街並みを担うことに他な
らない。それは望もうが、望むまいが、建築の持っている使命
/運命でもある。
設計をする以上、その辺りに目を背けてはいけない。と思わさ
れた一言でもある。
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■編集後記
建築物/建造物の寿命が長いことは概念では分かっています。
でもそれを自分が設計した建築で実感することは、なかなか出
来ません。
なぜなら、設計を生業とし始めて僅か15年そこそこですので。
でもそんな無責任なことを言うつもりもありません。
上のコラムで、数十年先の未来に、設計した建築物は繋がって
いるのだという事実を再認識した次第です。
変わらない信念を持つこと。自分も歴史の一員であり、設計し
た建築物も長い歴史/風景の一員であるということ。そんな
当たり前のことを、これからも忘れずに設計活動をし続けてい
きたいと思います。
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