空間工房 一級建築事務所

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10.04.30 Friday

ある住宅の思考過程(2)

■数えたことはありませんが、今まで色々な住宅コンペに最低

 でも50回以上参加してきたように思います。

 その中で採用に至ったのは恐らく2割程度だと思います。

 最初は「参加することに意義がある」と思って、ひたすら応募

 していました。しかし、ひたすら落選の日々でした。

 今でも採用される確率は高くはありませんが、最初のころより
 
 は多少マシになっている気はします。

 そんなコンペ参加の中で感じてきたことと、現在進行中のコン

 ペを絡めたお話しを少し。

 それではどうぞおたのしみください。
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■ある住宅の思考過程(2)

 今回は、とある住宅コンペ案の思考過程について少し。

 コンペのご要望書には色々と書かれているものである。それら
 ご要望を整理し、一つの案に収斂させていくのが、私達設計事
 務所の常である。そして一番重要なのは、全てのご要望を満た
 すということではなく(と言うと語弊があるが、おいおい説明
 することにする)、ご要望の中核となる点を見出すことである。
 と思っている。

 全てのご要望が備わった住宅が魅力的なものになるかと言うと、
 必ずしもそうはならないと考えている。全てのご要望を満たし
 つつ、「核」となるものを備えなければ、設計事務所の価値は
 ないように思う。

 さて、今回のご要望の中核は「中庭」。安藤忠雄氏の住吉の長
 屋のような中庭と明確に記載されている。

 敷地の間口は6.5m。奥行きは22m程度。住吉の長屋よりも広
 い。

 因みに住吉の長屋は間口3.3m。奥行き14m程度である。奥行
 きの約3分の1が中庭を占める大胆な構成である。

 かと言って、そのままコピーしたのでは面白くもないし、単な
 る盗作になってしまう。如何にオリジナリティを与えるか。如
 何にご要望を越える提案と出来るか。そこが重要である。

 今回の敷地は3方を住宅に囲まれた土地。しかも北向きの土地
 である。普通に考えても中庭的要素は必要だと思う。何故なら、
 いわゆる鰻の寝床的な土地なので、敷地全体に建物を建てれば、
 太陽光は入らない。のである。風も通らない。

 スタッフから最初に出てきた案は、細長い中庭というか坪庭が
 設けられたもの。明らかに弱い。というか、暗い。

 上から光を取り入れるにも適度な大きさがあって初めて機能し
 始めるのである。

 スタッフに伝えたことは一つ。「自分のアイデアに固執するの
 ではなく、発展性が見込めないときは潔く諦めること。」

 誰しも自分の案はカワイイ。何時間も掛けて温めれば温めるほ
 どに手放したくなくなる。それは分かる。

 が、実はそれは自己満足に陥るだけなのである。結果、コンペ
 には勝てない。というか、採用されない。

 一度自分の案を突き放す。冷静な眼で冷静に見直す。客観的視
 点からご要望と照らし合わせてみる。といった作業が必要なの
 である。

 これは何もコンペに限った話ではない。直接ご依頼いただいた
 場合でも必ず必要な作業なのである。

 「デザインを捨てる」ことも重要なデザインの一過程であると
 思っている。

 どうしても「そこに無ければならない」「そこに無ければ成り
 立たない」ものを「そこに埋め込む」。今回の場合はそれが「
 中庭」である。

 どの場所にあっても良い程度の中庭であれば、無い方がマシで
 ある。そこに無ければならない状態になって初めて「中庭」の
 存在意義が生まれる。強い中庭。というか存在。

 その中庭を介して生まれる、外部空間とのやりとり。
 その中庭を通して得られる開放感。
 その中庭があるからこそ得られる光・風。
 その中庭がもたらすコミュニケーション。
 その中庭が誘発する住まい方。
 などといったものが、図面から感じ取れるようになるまで「案
 」は練り上げられる。

 中庭があるから良いでしょ。では、無くても良いに等しい。

 中庭がなければダメでしょ。という領域にまで如何に昇華させ
 ることが出来るかが、今回のポイント。非常に重要なポイント
 だと思っている。

 お施主様がどの程度の中庭を想像されているかは、ヒアリング
 がないコンペなので正確には分からない。

 だからこそ設計者は「あるべき姿」「あるべき中庭」を軸に据
 えた設計の提案をする必要があるのだと思っている。

 結果はどうなるか分からない。自分達が最良だと思える案が採
 用されるとは限らない。

 しかし、自分達が最良だと思える案を考え出さなければ、そこ
 に費やす時間は誰のためにもならない。

 さて、そんな案が出来つつある。「中庭」があるからこそ生ま
 れる副産物が多様な案が。

 あとはお施主様の手に委ねるのみである。
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■編集後記

 コンペに必勝法など無いと思います。ただ、ご要望を上手く

 解けたからOKという話しには決してならないのではないか

 と感じています。

 特に住宅コンペの場合、「選ぶ人=住まう人」ですので何が

 ベストかは、住まう人が決定します。

 いかにその人にノリウツルことができるか。

 そんなことを考えながら、コンペに取組んでいます。

 結果は後からついてくれれば幸いです。ただ、なかなかついて

 きてくれないのが、コンペでもあります。

コラム | by muranishi | comments(0)

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