■質は落としたくないけれど、値段は落としたい。
何か買い物をするときに誰もが抱く願望だと思います。
今やユニクロは世界に羽ばたく日本の企業となりました。
手頃な価格で、質もある程度確保出来ている。
まさに現代デフレ日本の要望に応えている感じがします。
ニトリ然り、IKEA然り、マクドナルド然り。
さて、今回はそのような話しになるようなならないような・・。
それではどうぞおたのしみください。
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■施主支給や分離発注のこと
「ローコスト住宅」という言葉が叫ばれて久しい。
何をもって「ローコスト」とするのかは、一概には言えないと
思う。例えば1000万円台の住宅であっても、広ければロー
コストだろうが、狭ければローコストとは呼べない。単位面積
当りに掛かるコストが異なるので。
まあ当たり前のことではあるが。
なぜローコストを目指すのか。そこが大切である。住宅に掛け
る資金がないから。住宅に資金を掛けたくないから。それだけ
でも大きく違う。前者であれば、そこまでして得ようとする住
宅の姿とは何か?という観点に立つ必要があるだろうし、後者
であれば住宅に求める意味/意義は何か?という観点に立つ必
要があると思う。
人によって住宅に求める価値は様々だと思う。豊かに暮らした
い。とか。子供が大きくなった/子供が増えたので手狭になっ
た。とか。持ち家に憧れがある。とか、挙げればキリがないし、
また求めるものは一つではなく、大概は複雑な要素が絡みあっ
ているものだと思う。
私達設計事務所が行なうのは、資金も含めたそれら様々なご要
望を一つのカタチにしていくお手伝いである。設計を通して、
求めておられる空間を示す。若しくは共に創り上げることであ
る。
この設計作業はローコストだろうがなかろうが、変わらない。
設計事務所に依頼される時点で、ある種の期待を持って来られ
ていることが無言のうちに伝わってくる。特にこだわりがなけ
れば、設計事務所に問合せることは恐らくしない。そもそも
「設計事務所探し」自体が、一般の方にとってみれば「どこに
依頼したら良いか分からない」状態だと思う。もっと言えば
「設計事務所」に住宅の設計依頼をすること自体が、選択肢に
は無い方が多いと思う。たいていはハウスメーカーや地場の工
務店、知り合いの施工者、はたまたパワービルダーに依頼され
ることと思う。
では、「敢えて」設計事務所にローコスト住宅を依頼するとは
何なのか。
年間に数千棟建てるパワービルダーであれば、材良費も安く仕
入れられる。カタチもある程度一定なので、慣れた職人さんで
あれば安く請け負ってくれる。こなす件数も桁違いに多いので、
安くするノウハウは色々あり、データは集積/蓄積もされる。
極端な話し、薄利多売でも商売は成り立つ。いや、実際のとこ
ろは全く知らないので、見当違いのことを書いているかもしれ
ないが。
しかし俗に言うところの設計事務所は多くが個人経営である。
所員を雇うにしても、10人も20人も雇える事務所は稀で、
大概は数人である。と思う。特別なノウハウやスケールメリッ
トを有することも稀だと思う。
なので「敢えて」設計事務所に依頼される理由は、実は明白な
のである。大量仕入れによる減額を期待されているわけでもな
ければ、安く請け負ってくれる施工業者と繋がっていることを
期待されているわけでもない。たぶん。
ある種の空間を華美な仕上げを省いた上で、豊かに暮らすため
にはどうすれば良いか。を求めて来られるのだと思う。
そこには断熱性・耐震性・機能性・持続性・デザイン性といっ
た住宅が有して欲しい/有しているべき性能は備わっている。
ということが大前提であるだろうことは、書くまでもない。
何を削るか?と考える前に、何が必要か?を考える。そして必
要なものに焦点を当てた設計をする。一点豪華主義というか、
貫く揺らぎない設計意図を組み立てていくことが、ローコスト
と呼ばれる空間には必要不可欠な要素だと思っている。
仕上げを安く。構造材も安く。設備機器も安く。・・・などと
していった先にある空間は「安いだけ」の空間に成りかねない。
それこそ何のために建てた住宅か分からない。「安く」するこ
とが目的になり「住む」ことが二の次になるようでは、建てな
い方が良い。かもである。
必要不可欠な要素を探りつつ、「ローコスト」という言葉が持
つ魔力に絡め取られることなく設計は進めるべきである。
そんなこんなを少なからず経験してきたつもりである。そして、
その中で一つのローコスト手段として有用だと思っているのは
「施主支給」と「分離発注」である。
いずれも質を落すことなく、中間マージンだけを落す。なので、
非常に健全なローコスト手段だと思っている。
但し「施主支給」はキッチンやトイレなど「製品」として保証
されているものに限る。「分離発注」は電気工事や家具工事な
ど、責任所在がハッキリ出来るものや、建物の強度や性能に直
接関わってこないものに限る。といった条件付きではあるが。
特に「分離発注」は基礎や屋根を分離してはいけない。建物に
とって非常に重要な部分であり、万一不具合が生じた場合の責
任の所在が曖昧になるから危険である。
その他の手法としては、建具がなくても良い間取りにするとか、
工種を減らすとか、既製品を上手く使うとか色々あるには、あ
る。
しかしあくまでも「豊かさ」を忘れない程度にすべきだと思う。
「安さ」ばかりに心を奪われては、本末転倒となることを強調
しておきたい。
何のための住宅なのか。そこを忘れなければ、豊かなローコス
トも可能だと思っている。
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■編集後記
安いものには安い理由があります。
高いものには高い理由があります。
その理由を究明すると、どちらを選ぶべきかが見えてくるのだ
と思います。その時々の価値観によってではありますが。
ただ住宅は1年や2年で買い替える代物ではありません。
その時の価値観が10年先20年先まで続くかどうか。
結構慎重になるべき問題だと思っています。
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