■海外に比べると日本の住宅業界/不動産業界でかなり遅れを
とっている分野があります。
それは、中古住宅の流通です。(他にもあるかもですが・・)
ストックという意味では、中古住宅は社会の資産であるとも
言えます。
その社会資産をどのように活用していくか。今後の日本住宅
不動産業界の課題でもあるかと思います。
さて今回はそんな関係のお話しを少し。
それではどうぞおたのしみください。
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■リノベーションについて
現在、リノベーション設計した住宅が施工中である。
今月末には完成予定である。今回は、完成間近のこの時期に思
うところを少し書いてみたいと思う。
今まで少なからずリノベーションの設計をさせていただいた。
住宅に限らず、店舗や病院等、その対象範囲/用途は多様であ
る。
リノベーション。敢えてリフォームという言葉を私達は使わな
い。そこには明確な区別が在る。リフォームとは、水廻りを水
廻りのまま新しくしたり、壁紙を新しいものに張り替えたりと
いったもので、あまり設計事務所の出る幕はない。対してリノ
ベーション。これは、既存の建築物に大幅に手を加えて、空間
を甦らせることを意味する。極端な話し、既存の間取りごと変
えてしまう。勿論、仕上げも変える。
もう一つ、コンバージョンという言葉もある。これは、既存の
使用用途ごと変えてしまうことを意味する。例えば、廃校を喫
茶店やギャラリーに用途変更するといった感じである。住宅を
店舗に変更することもある。
言葉の定義は挙げ出せばキリがないが、サスティナブルという
言葉もある。これは、持続可能という意味。長期優良住宅など
の新築建築物にも当てはまる言葉であるが、建築の持続性とい
う広い意味では、リノベーションもこの領域に入ってくるよう
に思う。
さて、リノベーション。古いものを新しくするという感じに捉
えられるかもしれないが、必ずしもそうではない。例えば、古
民家や古い京町屋などをリノベする時には、昔の建築に良く見
られるゴツイ梁などをわざと見せたりする。今まで天井裏に隠
れて見えなかったものを見せる。そこに刻まれている時間の蓄
積を見せることで、空間が豊かになったり、何か懐かしさを醸
し出したりする。これは、現代建築でやろうとするとお金も掛
かることだが、昔の建築であれば、天井板を無くすことで容易
に実現できる。
リノベーションには現地調査時点では見えなかったものが、解
体作業によって見えてくる場合が多々ある。なので、難しくも
あり、面白くもある。
リノベで根本的に難しい点を挙げるとするならば、断熱性と耐
震性である。基本、古い建築物はそれらの機能を備えていない。
断熱性はある程度の断熱材を充填すれば良い。と簡単に言って
はいるが、充填するには壁や床をめくらなければならない。土
壁の時はお手上げである。壁を断熱材の厚み分ふかしてこなけ
ればならない。床は全てめくらなければ断熱材を入れられない。
そしてもっと困難なのが、耐震性。国の耐震基準はコロコロ変
わる。なので厳密に言えば、耐震基準以前の建築物は必然的に
既存不適格となる/なってしまう。
ご存知の通り、日本は地震大国である。大地震が起きる度に耐
震基準は見直される。なので現行の耐震基準で建てたものが1
00%大丈夫かと言えば、難しいところであることも確かだと
感じている。
因みに割合最近の遷移だけ見ると、1981年(昭和56年)
に新耐震基準が制定された。これは78年の宮城県沖地震の被
害状況を鑑みて制定されたものである。
1995年の阪神淡路大震災では、新耐震基準での建築物被害
は大破・倒壊に限って言えばわずか1%。旧耐震基準での建築
物被害は約80%がなんらかの大きな被害を受けたと報告され
ている。なので、新耐震基準以降の建築物は一定の安全性が確
保できていると言えるかもしれない。
リノベーションの際には耐震補強を新耐震基準に合せたカタチ
で行なうのが良いのは当然ではある。しかし、予算にもはね返
る。しかも建築当初の構造図面や計算書が揃っていなければ、
打つ手はない。まさか全て解体して耐震壁位置を確認するわけ
にもいかない。そんなことをする位なら建替えた方が安い位で
ある。
なので、耐震性の問題は悩み所である。
あまり中途半端な事柄を書くのも憚られるが、昨年末に三木市
のEディフェンスで行なわれた実験が話題になった通り、長期
優良住宅向けの木造3階建てに対する金物補強を行なった実物
大の住宅と、補強を行なっていない住宅を同時に揺らしたとこ
ろ、起こってはならないことが起こった。補強を施した方が倒
壊し、施していない方が倒壊しなかったのである。事の原因は
現在も究明中である。基礎との緊結が甘い方が地震力を逃した
り、筋交いの入れ方に原因があったりと言われているが、倒壊
した事実は消せない。一概に何をすれば万全ということは現段
階では言えないのである。
耐震補強については、別の機会で触れたい。
話しが大幅に横道に逸れたが、本題に戻したい。
リノベーション。
諸々の難しさは確かに存在するのだが、意匠的観点から言えば、
新築とは違う面白みが存在する。今まで暗かった空間が明るく
なったり、狭く感じたものが広く見えたり、といった具合であ
る。まさに「甦る」感じ。息を吹きかえす感じ。新たな生命が
宿る瞬間を目の当たりにする感じ。
リノベーションは敷地が建物の外郭に置き換わる。新築と違っ
て、敷地の持つ可能性を丸ごと変えられるわけではないが、建
物の持つ可能性は変えられると感じている。
どのように変化を遂げるのか。ある意味、TVのビフォーアフ
ターのようである。が、アレはアレ。匠が自ら家具をつくるな
んてありえない。家具は家具業者がつくる。設計者は設計に専
念する。これが事実だと認識している。
来週の今頃には完成形が確認できる予定である。劇的かどうか
は自分ではあまり分からない。なぜなら、週に2回程度現場を
訪れるので、現場状況の変化は緩やかに感じるからである。し
かし、完成形が近付いた今、ワクワク感がこみ上げてきている。
単純に楽しみである。
あとは、そのワクワク感をお施主様にも感じていただければ最
高である。と思っている。
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■編集後記
古いものが良さを持ち始めるのに何年かかるのでしょうか?
なぜ日本/日本人は新しいものが好きなのでしょうか?
考え始めると疑問点は多くあります。
京都ではまた景観法の見直しが進められています。
厳しくなる面もあれば、緩くなる面もあるようです。
時間を重ねる都市には時間を重ねる建築が必要です。
景観法という縛りを縛りとして捉えるのではなく、未来のある
べき姿を考える契機として捉えていきたいと思っています。
もっとストックの活用が一般的になれば、景観法など必要なく
なる時代がくるのかもしれません。
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