空間工房 一級建築事務所

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10.01.08 Friday

景観を守るということ(2)

■人間の記憶は曖昧なものだなと感じる時があります。

 自分が幼少の頃住んでいた街並み。

 現在ではすっかり様変わりしています。

 話題を呼んだ、京都駅ビル。

 小さい頃から幾度も見ていたはずなのに、前の駅舎の姿が

 思い出せません。

 記憶力が悪いせいも大いにあると思います。

 でも、建築の力のなさも多分にある気もしています。

 今回は以前に続き「景観」の話題をひとつ。

 それではどうぞおたのしみください。
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■景観を守るということ

 とある本を読んだ。

 そこに登場していたのは、とある建築家と大手ハウスメーカー
 の開発担当者。

 そこに記されていたある資料によると、日本の住宅の約20%
 が積水ハウスなどのハウスメーカーが手掛けているらしい。意
 外に少ない。そして約80%が、今やキムラタクヤがCMに登
 場するタマホームなどのパワービルダーが手掛けているとのこ
 と。

 あれっ?設計事務所や建築家は?と思ったが、恐らく極めて少
 ないのだろう。

 そして開発担当者は、こう述べる。「建築家が設計する家は特
 殊解を出し、我々は一般解を求めている」と。

 少なくとも私達は特殊解など出しているつもりはない。そこに
 住まわれる人々の想いを空間化しているのであって、それがイ
 コール特殊解とは思っていない。逆にそもそも住宅に一般解な
 んてないと思っている。

 開発者はさらにこう述べる。「建築家の設計した家が集まって
 も美しくならないのではないか。現実社会の街並みは、ハウス
 メーカーやパワービルダーが創っている」と。

 現実社会の街並みが美しいかどうかの判断は避けたい。建築家
 の家が集まっても美しくならない根拠を知りたい。

 実は、建築家の家が集まった街並みは存在する。京都で言えば
 烏丸北大路近辺。兵庫で言えば芦屋の一角に在る。少なくとも、
 個人的にはメーカーの団地よりも美しいと思う。

 前置きはさておき、景観。街並み。

 現在京都市内の住宅を設計監理するため、週に一度のペースで
 現場を訪れている。事務所から自転車で約20分の道のりであ
 る。9月に始まった現場なので、約3ヶ月が経過した。その道
 のりは毎回同じルートを辿っている。そのルートの街並みは、
 このたった3ヶ月でも、3件のマンション工事が進められ、2
 件の建物が解体され更地になった。そして1件の住宅工事がい
 つの間にか始まっていた。

 以前、何が建っていただろう?と思うほどに人間の記憶は曖昧
 である。街並みは、どんどん変わっていくという事実。日本の
 街並みは変化が激しい。京都ですら、そう思う。

 一方、街全体が世界遺産に指定される国もヨーロッパにはある。
 中世の雰囲気をそのまま、丸ごと残しているという事実。屋根
 は赤瓦で統一され、外装は石造りのアレである。普通に美しい。
 実は、法で「残すように」定められている。イタリアなどは、
 外装をいじっては駄目という法律があると聞いたことがある。
 従って建築家の仕事は少ない。

 ローカルな話題だが、京都のゼスト御池という地下街の一角で、
 「京都の今昔」という写真展が開催されている。常設展示なの
 か、いつ行っても開催されている。が、因みに見ている人は少
 ない。その写真を見ていると、昭和初期や大正時代の街並みが
 分かる。今や面影が全くといっていいほど無いことも分かる。
 そりゃそうである。この3ヶ月ですら街並みは保たれていない
 のだから。

 日本の住宅は木造が多く、冬場には乾燥するから火事も多い。
 更には地震大国であるため、自然災害での街並み消失も免れな
 い環境にあることも事実としてある。戦争による破壊も少なか
 らず影響していることと思う。かたやヨーロッパでは、石が多
 く採れたため、石造の住宅が多く、地震も少なかったことから、
 代々街並みが受け継がれていることも事実としてあると思う。

 建築は古来、土着のものである。その土地で採取出来る材料を
 基に造られるのが昔は一般的だった。京都で言えば、北山杉や
 聚楽土など。四国で言えば、庵治石など。地域によっては茅葺
 きの家。

 しかし、今は流通が発達し、日本全国どのような素材でも調達
 可能となっている。ハウスメーカーは工場でプレファブリケー
 ションし、現地に運んできて建てる。組み立てる。ビルダーに
 しても然り。そして建築家にしても土着の材料のみで創り上げ
 ることは稀である。

 果たして、街並みを守る要素が現代日本に存在するのか?とい
 う思いも生じる。そこまでして守るべき街並みがあるのか。

 家の寿命について調べたことがある。ヨーロッパで100~1
 50年。建国からわずか200数十年のアメリカでも60年。
 日本は30年前後であった。短い。相対的にというよりは、絶
 対的に見ても短い。木造だから短いわけでもない。世界最古の
 木造建築物である法隆寺の金堂・五重塔は築1300年を超え
 ている。

 しかし、30年前後では「街並み」は形成され得ない。人生8
 0年。生まれてから死ぬまでの間に2回も街並みが変わる計算
 である。どうしようもない。

 日本の首相もコロコロ変わる。既に2代前となった福田政権時
 代に「200年住宅」政策が発表された。一応今も引き続き、
 有効である。200年は持たないかもしれないが、せめてその
 半分は持たせないといけない。そうすれば、少しは残したい街
 並みが出現するかもしれない。ただ、その政策、主に構造躯体
 や断熱性能などの機能面を方向付けているのみである。デザイ
 ンは統一されていない。

 バラバラな街並みが一旦形成されると、そのまま100年近く
 その街並みでいくことになる。それを考えると、ある意味恐ろ
 しい。

 何事も最初が肝心である。ヨーロッパの世界遺産のように美し
 い街並みが出来るチャンスは始まったばかりである。

 そんな様々なことを考えつつ、自分に何が出来るのか。真剣に
 考えたい。
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■編集後記

 今は京都御所近くにある築80年の京町屋を事務所として使っ
 ています。

 前は嵐山方面の建売住宅を事務所として使っていました。

 久々(2~3年振り位)に初詣ついでに前の事務所近くを通り
 ましたが、見事に街並みは変わっていました。タイムスリップ
 のように。

 結構愕然としました。
 
 今の場所に移ってから5~6年になりますが、場所柄からか
 殆ど雰囲気は変わっていないような気がします。勿論新しい
 建物は建っているのですが、前の場所ほど激しく変わった印
 象は受けていません。

 ずっといるから変化に疎くなっている/気付き難くなっている
 だけなのかもしれませんが・・。

 記憶に残る建築。その記憶を元に街並みが形成されていくシス
 テム。そんなものが必要なのかもしれません。

コラム | by muranishi | comments(0)

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