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10.04.16 Friday

ある建築家の言葉(9)

■丹下健三・槙文彦・安藤忠雄。

 何の話しか?

 建築界のノーベル賞とされる「プリッカー賞」を受賞した

 日本の歴代建築家の名前です。

 1979年から始まったプリッカー賞。対象者は全世界の

 建築家で、昨年までで31名/組の受賞者がありました。

 そして今年2010年の受賞者は日本人でした。

 そんな話しにも少し絡んだ今回のコラム。

 それではどうぞおたのしみください。
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■ある建築家の言葉(9)

 シリーズでお伝えする「ある建築家の言葉」

 今回は9回目。

 今回はデザイン面や思考面での言葉というよりは、精神論的な
 関係になるかもしれないことをお断りしておく。

 なので、特に建築に限った話しではなくなる可能性大である。

 今回は、妹島和世(せじまかずよ)氏の言葉から少し。

 妹島氏は伊東豊雄氏の事務所から独立された女性の建築家であ
 る。最近では西沢立衛氏(妹島事務所出身・建築家西沢大良氏
 を実兄に持つ)と共同設立したSANAAで、建築界のノーベ
 ル賞と謳われる「プリッカー賞」を受賞した。女性としては2
 人目である。SANAAの設計で恐らく最も世間的(日本的)
 に有名なのは「金沢21世紀美術館」だと思う。

 他にも「岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー・マルチメディ
 ア工房(1996年)」で、日本建築学会賞を受賞している。

 そんな数ある受賞歴を有する建築家であり、いわば奇想天外と
 も思える数々の設計事例を有する建築家の言葉として、とある
 本で目にした内容は意外なものだった。

 「日本建築学会賞を受賞してから数年後、1年位仕事の依頼が
 来なかった時期があった」

 うそ?!・・・これが素直な感想である。

 「事務所を縮小しなければと思いました」

 さらにつづく

 「それでもコンペには参加し続けました」

 強い。非常に強い。

 建築学会賞と言えば、ハッキリ言って日本の建築界では最も名
 誉のある賞の一つである。メディアにも色々と紹介もされる。
 知名度もグンと上がる。

 なので、普通に考えればアチコチから仕事の依頼が舞い込む。
 はずである。

 しかし、実際は違ったようである。ご本人が明言しているのだ
 から、そこは疑いようがない。

 しかも1ヶ月ではない。1年間仕事の依頼が来なかったのであ
 る。

 勿論、大学の講師などで生計は維持できる環境にあったとは思
 う。しかし、である。

 それでもコンペに全力を注ぐという姿勢。背水の陣で臨むコン
 ペ。いずれも海外コンペや公共建築などの大型施設ばかりであ
 る。一朝一夕にはコンペ案などできないことは容易に想像がつ
 く。

 住宅規模の設計依頼すらない状況である。

 普通なら焦る。

 しかし1年後、全てが動き出す。金沢の美術館然り、海外プロ
 ジェクト然り。仕事依頼のない中で打ち込んできたコンペがこ
 とごとく取れたのである。起死回生の一発ではなく、2発3発
 である。

 今私達が設計している規模とは大きく違うので、比べるのもお
 こがましいかもしれない。が、思ったことを書いておく。

 論語の一節にある「用舎行蔵(ようしゃこうぞう)」。原文を
 解釈すると「コレヲ用イルニ行イ、コレヲ捨(舎)ツルニ蔵(
 カク)ル」

 世の中に必要とされていない時はジッと時を待ち、いざ必要と
 された時は最大限の力を発揮する。というような意味である。

 私達はこれを意訳・独自解釈して「得られた機会に全力を尽く
 す」としている。

 実は重要なのは「必要とされない時」にどのような行動をとる
 のか?だと思う。

 妹島氏さらには西沢氏がとった行動は「コンペに集中する」と
 いう内容である。コンペは水物なので、取れるか取れないかは
 誰にも分からない。コンペに参加するほぼ全員が全力を出して
 くるのだから、取れる可能性は極めて低いとも言える。しかし、
 出さないと通らない。でも出せば良いというものではない。絶
 対取るという信念と意気込み。そして、最終的にはそれらが収
 斂して一つの案となる。

 結果論として、SANAAはプリッカー賞を受賞するに至った。

 しかし結果だけを眺めていてはいけない。そこに至るには、仕
 事のない時期という過酷な時期が確かにあったのである。そし
 て、プリッカー賞を受賞する大きな要因/作品の一つである「
 金沢21世紀美術館」は、その「仕事のない」時期に力を注い
 だコンペによって「もぎ取られた」ものなのである。

 経験上、仕事には波がある。一定ではない。

 波が止んだときに「何をするか」。妹島氏の言葉/行動を見習
 って、用舎行蔵の裏の意味に耳を傾けて、「行動」していきた
 いと思っている。
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■編集後記

 どんな成功者でも、成功の裏には失敗や苦難があるのだと思い

 ます。

 それをいかに乗越えるか。乗越えることができるか。乗越える

 ために何をするか。

 そこが大切なんだな~と思っている次第です。

 SANAAのお二人の言葉で、他にも印象に残る言葉は多くあ

 りますが、それは次の機会にまた書ければと思います。

 どさくさに紛れて、用舎行蔵を引き合いに出しましたが、用舎

 行蔵には他の思いも込められています。それもまた次の機会が

 あればと思います。

コラム | by muranishi | comments(0)

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