空間工房 一級建築事務所

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10.04.09 Friday

距離感

■現在、京都御所で春の一般公開真っ最中です。

 事務所から歩いて5分もかからないにも関わらず、行ってませ
 
 ん。とは言え、毎日の通勤は京都御苑を自転車で突っ切ってい

 るのですが・・。

 京都に住んでいることもあり、近くのお寺に散歩へ出掛けるこ

 とがあります。良く行くのは通称「黒谷」。京都守護職松平容

 保公が本陣を置き、新撰組が誕生したお寺でもあります。

 さて、今回はそんなことと関係あるようなないようなお話。

 それではどうぞおたのしみください。
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■距離感

 設計者の必需品の一つとして挙げられるものに、スケール/メ
 ジャーがある。

 私達が大学生の頃、図面は主に製図板に向き合って、鉛筆で紙
 に描いていた。今でもそうなのかもしれないが、学生の知り合
 いは居ないので、分からない。

 現在はと言えば、パソコンに向かってCADで図面を描いてい
 る。

 勿論、学生の頃にもCAD演習というものがあったが、課題は
 製図板で描くのが基本だったし、現在でも一級建築士の実技試
 験(図面)は製図板を試験会場に持ち込んで、図面を描くこと
 になっている。

 設計事務所といえば、一般の方には馬鹿デカイ製図板が並んで
 いるイメージを持たれている方が居られるかもしれない。TV
 ドラマなどでも、その方がビジュアル的に分かりやすいので、
 少し前の建築家が主役のものなどは、そうだった。

 しかし今では、恐らく殆どの設計事務所がパソコンオンリーで、
 製図板などは置いていないと思われる。その方がスペースも取
 らないし、データのやり取りも容易にメールなどで出来るから
 便利なのである。

 ただ、このCAD。気を付けるべき点がある。

 全てはパソコン画面の中で描いていくという点。そのスケール
 /縮尺が1/100だろうと1/1だろうと全ては画面の中に納まって
 しまうのである。

 大学の授業で初っ端に言われたこと。それは「常にスケールを
 持ち歩きなさい。」そして「身の回りにある寸法を測りなさい」
 ということだった。

 つまり、階段の蹴上げ/高さ寸法だとか、扉の開口寸法だとか、
 洗面の高さだとか、身につけるべき寸法は至る所にあるので、
 気になる寸法があったら、すぐに測れるようにしておきなさい、
 ということである。

 実はコレ、設計をしていく上で非常に単純ではあるが、非常に
 重要なことなのである。

 身長によっても快適な高さや幅・奥行きといったものは微妙に
 異なるのは事実としてあるが、凡その快適な寸法というのは決
 まっている。

 それらを知らないと、図面を描く度にイチイチ調べたり、測っ
 たりしなければならないのである。

 そして、そのようなスケール感と同等に重要なのが「距離感」
 であると思っている。

 上述した通り、CADで図面を描く場合は全てがパソコン画面
 上に納まる。これが、製図板で紙に描くとなると、スケール/
 縮尺によっては、物理的に入りきらない状況がある。が、パソ
 コンはそんな状況はない。

 身体的に感じる距離感が、紙とパソコンでは大きく違ってくる
 のである。

 重要なのは、現実には全てが1/1の縮尺で出来上がるということ。
 当たり前の話しなのだが。

 例えば、居室の広さを図面上で感じようとするとき、人を描い
 たりする。机や椅子を描いたりする。

 しかし実際はそれでは不充分なのである。

 何故か?

 それは、あくまでも図面上の話しであり、二次元上の話しであ
 るから。

 やはり、実際に感じる為には「スケールで測る」という行為が
 必要になるのである。

 図面上では広く見えても、実際に測って確認すると少し狭かっ
 たり、少し圧迫感があったり、逆に少し間延びしたりというこ
 とが少なからずある。

 そして、現実の世界は三次元なので、幅と奥行きに加えて高さ
 という次元が入る。それらの距離感が合わさって、一つの感覚
 /身体感覚になる。平面的に広くても、高さが普通だと圧迫感
 が生じたり、逆に平面が狭くても天井が高いと開放的に感じた
 りする。

 そういった距離感は、なにも室内に限ったことではない。

 外部からの見え方や隣家との距離感でも然りなのである。

 CADは便利である。が、距離感を常に大事にしておかないと、
 実際に出来上がる距離感との間に誤差が生じてしまう。

 住宅には住宅の。大きな建築物には大きな建築物の距離感があ
 ると思っている。

 大きなお寺を訪れると、つい思うのが、住宅との距離感の違い
 である。

 本堂に敷かれている畳の帖数を数えて、その時設計している住
 宅の広さ・敷地の広さと比較することがある。すると、その本
 堂に「一体何軒の家が建つんだ?!」とビックリする。それぐ
 らい、広い。その本堂にただ身を置いていると、そんなに広く
 は感じないのに。である。

 距離感とスケール感。どちらも大切にしながら、図面を描いて
 いる。「お寺って実は馬鹿デカイ」と思いながら・・。
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■編集後記

 上記のお寺とは「黒谷さん」=金戒光明寺のことです。

 時代劇や大河ドラマ・映画などのシーンにもよく使われる

 隠れた名勝です。近くには真如堂もありますので、機会があれ

 ば、是非一度訪れてみてください。

 そして、御所。毎日その塀沿いを自転車で行き来しているので

 すが、やはり冷静に考えると、塀の高さだけでも通常の住宅の

 2階位の高さがあります。

 その場にいれば大きく感じないのですが、実は滅茶苦茶大きい。

 スケール感・距離感は大事です。全てはバランスに繋がるのだ

 と思いますが。

 そんなことを考えながらの、毎日自転車通勤です。

コラム | by muranishi | comments(0)

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