■現在、京都御所で春の一般公開真っ最中です。
事務所から歩いて5分もかからないにも関わらず、行ってませ
ん。とは言え、毎日の通勤は京都御苑を自転車で突っ切ってい
るのですが・・。
京都に住んでいることもあり、近くのお寺に散歩へ出掛けるこ
とがあります。良く行くのは通称「黒谷」。京都守護職松平容
保公が本陣を置き、新撰組が誕生したお寺でもあります。
さて、今回はそんなことと関係あるようなないようなお話。
それではどうぞおたのしみください。
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■距離感
設計者の必需品の一つとして挙げられるものに、スケール/メ
ジャーがある。
私達が大学生の頃、図面は主に製図板に向き合って、鉛筆で紙
に描いていた。今でもそうなのかもしれないが、学生の知り合
いは居ないので、分からない。
現在はと言えば、パソコンに向かってCADで図面を描いてい
る。
勿論、学生の頃にもCAD演習というものがあったが、課題は
製図板で描くのが基本だったし、現在でも一級建築士の実技試
験(図面)は製図板を試験会場に持ち込んで、図面を描くこと
になっている。
設計事務所といえば、一般の方には馬鹿デカイ製図板が並んで
いるイメージを持たれている方が居られるかもしれない。TV
ドラマなどでも、その方がビジュアル的に分かりやすいので、
少し前の建築家が主役のものなどは、そうだった。
しかし今では、恐らく殆どの設計事務所がパソコンオンリーで、
製図板などは置いていないと思われる。その方がスペースも取
らないし、データのやり取りも容易にメールなどで出来るから
便利なのである。
ただ、このCAD。気を付けるべき点がある。
全てはパソコン画面の中で描いていくという点。そのスケール
/縮尺が1/100だろうと1/1だろうと全ては画面の中に納まって
しまうのである。
大学の授業で初っ端に言われたこと。それは「常にスケールを
持ち歩きなさい。」そして「身の回りにある寸法を測りなさい」
ということだった。
つまり、階段の蹴上げ/高さ寸法だとか、扉の開口寸法だとか、
洗面の高さだとか、身につけるべき寸法は至る所にあるので、
気になる寸法があったら、すぐに測れるようにしておきなさい、
ということである。
実はコレ、設計をしていく上で非常に単純ではあるが、非常に
重要なことなのである。
身長によっても快適な高さや幅・奥行きといったものは微妙に
異なるのは事実としてあるが、凡その快適な寸法というのは決
まっている。
それらを知らないと、図面を描く度にイチイチ調べたり、測っ
たりしなければならないのである。
そして、そのようなスケール感と同等に重要なのが「距離感」
であると思っている。
上述した通り、CADで図面を描く場合は全てがパソコン画面
上に納まる。これが、製図板で紙に描くとなると、スケール/
縮尺によっては、物理的に入りきらない状況がある。が、パソ
コンはそんな状況はない。
身体的に感じる距離感が、紙とパソコンでは大きく違ってくる
のである。
重要なのは、現実には全てが1/1の縮尺で出来上がるということ。
当たり前の話しなのだが。
例えば、居室の広さを図面上で感じようとするとき、人を描い
たりする。机や椅子を描いたりする。
しかし実際はそれでは不充分なのである。
何故か?
それは、あくまでも図面上の話しであり、二次元上の話しであ
るから。
やはり、実際に感じる為には「スケールで測る」という行為が
必要になるのである。
図面上では広く見えても、実際に測って確認すると少し狭かっ
たり、少し圧迫感があったり、逆に少し間延びしたりというこ
とが少なからずある。
そして、現実の世界は三次元なので、幅と奥行きに加えて高さ
という次元が入る。それらの距離感が合わさって、一つの感覚
/身体感覚になる。平面的に広くても、高さが普通だと圧迫感
が生じたり、逆に平面が狭くても天井が高いと開放的に感じた
りする。
そういった距離感は、なにも室内に限ったことではない。
外部からの見え方や隣家との距離感でも然りなのである。
CADは便利である。が、距離感を常に大事にしておかないと、
実際に出来上がる距離感との間に誤差が生じてしまう。
住宅には住宅の。大きな建築物には大きな建築物の距離感があ
ると思っている。
大きなお寺を訪れると、つい思うのが、住宅との距離感の違い
である。
本堂に敷かれている畳の帖数を数えて、その時設計している住
宅の広さ・敷地の広さと比較することがある。すると、その本
堂に「一体何軒の家が建つんだ?!」とビックリする。それぐ
らい、広い。その本堂にただ身を置いていると、そんなに広く
は感じないのに。である。
距離感とスケール感。どちらも大切にしながら、図面を描いて
いる。「お寺って実は馬鹿デカイ」と思いながら・・。
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■編集後記
上記のお寺とは「黒谷さん」=金戒光明寺のことです。
時代劇や大河ドラマ・映画などのシーンにもよく使われる
隠れた名勝です。近くには真如堂もありますので、機会があれ
ば、是非一度訪れてみてください。
そして、御所。毎日その塀沿いを自転車で行き来しているので
すが、やはり冷静に考えると、塀の高さだけでも通常の住宅の
2階位の高さがあります。
その場にいれば大きく感じないのですが、実は滅茶苦茶大きい。
スケール感・距離感は大事です。全てはバランスに繋がるのだ
と思いますが。
そんなことを考えながらの、毎日自転車通勤です。
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