空間工房 一級建築事務所

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09.12.28 Monday

景観を守るということ

■西暦2000年12月31日に、ミレニアムイベントとして

 京都の大文字(五山)送り火が催されました。

 送り火はお盆の時期(毎年8月16日)に催されるものです。

 敢えて2000年年末に催された理由は、20世紀を送ると

 いう意味があるとかないとか。

 京都人は「送り火」といい、先祖の霊をその煙にのせて送り

 ます。だから手を合わせます。

 でも全国的には「大文字焼き」という名で知れ渡っていること

 と思います。

 そんな大文字。京都人の心の故郷。原風景。

 今回は、それに絡めたお話しです。

 それでは、どうぞ。(少し長めです)
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■景観を守るということ

 2年ほど前の夏に、京都では「建築物等のデザイン基準」が制
 定され施行された。いわゆる「景観条例」というものである。

 この条例。何を定義しているかというと、京都の街並みを文化
 的資産と捉え、建物の形態や意匠(デザイン)を制限して、良
 好な都市環境の形成・保全を行うことで、将来の世代に継承し
 ていく。というもの。

 京都市内を色々な観点から領域分類して、例えば歴史的遺産地
 区だとか町屋が多く残る界隈だとか、市街地景観だとか、とに
 かく事細かに分類した上で其々の地区での意匠制限を設けてい
 る。

 屋根の勾配・外壁の色・門の設置・軒の出・サッシの色・室外
 機の目隠し等など制限は多岐に渡る。

 「は?」と聞き返したくなる領域までも踏み込んで決められて
 いる。

 施工当初は勿論大混乱。建て控えさえ生じ、京都市内では一種
 の社会現象となったほどの「条例」である。

 と、ここまで書いてきて、個人的に「反対」という文面になっ
 ている気もするので、敢えて個人的意見を表明すると、答えは
 「賛成」である。

 「は?」と聞き返したくなる方もおられるだろうが、「賛成」
 なのである。

 むしろ、遅すぎる気がした。又は、そうまでしないと誰も街並
 みのことを考えないのか?という気さえした。

 そういう自分は街並みにしっかりと合った設計をしているのか?

 と問われそうだが、少なくとも「馴染む」ことは心掛けて設計
 してきたつもりである。

 なにも「京町屋」が並ぶ界隈だからといって、「京町屋」その
 ものをこれからも建てるべきだとは正直思っていない。という
 か、そういうニーズが少ない。でも、「これからの」京町屋の
 あり方や街並みのあり方というものはあるはずである。その辺
 りを考えることが大切だと思う。

 少し話しが逸れるが、地区によっては「太陽光パネル」は今の
 ところ認められていない。エコが叫ばれる真っ只中なのに、N
 Gなのである。こればかりは「おかしいんじゃない?」と素直
 に思う。

 曰く、「反射するから駄目」なのだそうだ。

 「地球を守る」よりも「景観を守る」方が大事なの?と思って
 しまう。将来の世代には「景観」も継承すべきだが、根本的に
 「地球」を継承しなきゃ元も子もない。

 ま、それは置いておいて。

 基本的には賛成である。街並みは10年や20年で形成されな
 い。コミュニティも然り。100年単位で守って行かなければ、
 町並みは形成できないと思う。壊すのは一瞬で出来るとしても。
 だ。

 だからこの条例は、京都の街並みがもう少しマシな時期に制定
 されるべきだったと思う。ま、いまさらだが。

 もう二年近く経つというのに、未だに役所に行けば、役人に食
 って掛かっている人を見かける。「もう、いいから」と思って
 しまう。「条例を守って、良い街並みを形成していきましょう
 よ」と思わず横から口を出したくなる。未だに条例に納得いか
 ないらしい。

 建物は個人のもの。でも。景観はみんなのもの。なのだから。

 で、も一度話しを逸らす。

 景観条例と並列して「近景デザイン」「遠景デザイン」という
 のもある。例えば金閣寺などの世界遺産近辺に建てる建物は、
 意匠は勿論のこと、高さも低く抑えるだとか、送り火で有名な
 大文字を鴨川から見えるように高さを抑えるだとかの決まりで
 ある。

 世界遺産って、京都に10ヶ所以上あるんですけど?

 そう、つまり市内全域が何らかの条例に引っかかるようになっ
 ているのである。逃げ場はない。

 それはいいとして、世界遺産を守るべく市民は努力しているの
 である。限られた敷地なのに、軒の出とかいう規制で、建物は
 小さくせざるを得ない「血」を流しているのである。なのに、
 お寺はなにも動かない。せめて、「景観保全税」を拝観料に乗
 っけて、税金を納めて、少しでも廻りの人に還元するとか考え
 ても良さそうなものだが。。しない。

 随分昔に「拝観税」を制定して揉めたことがある。「信仰」を
 税金にするな!だったら拝観停止だ!というやつである。

 ごもっとも。

 でも、近所に高層ビルが建ったら建ったで、文句言うし。

 いわゆる京都ホテル騒動である。ややこしい。

 京都市役所横の京都ホテル(現オークラホテル)が高さ60m
 級の建物を建てた際、京都ホテル宿泊者は「拝観お断り」とし
 たニュースである。恐らく市役所は老朽化建替えを目論み、前
 例を作っておいて、自分も高層化しよーっと。って思ったに違
 いない。目論みは崩れた。

 なんの話しか、よく分からなくなってきたので、まとめに入る。

 「近・遠景デザイン」も賛成である。(「なんじゃそりゃ」と、
 皆さん。こけないように)

 今進行中の市内の住宅。実は2階から「大文字」が遠くに見え
 るのである。周辺の高さ規制が効いているからだと思う。道路
 を歩いていたら、「大文字」なんてどこにも見えない。でも、
 2階レベルから良く見えるのである。

 景観を守り、街並みを形成し、高さもある程度に抑える/揃え
 るのも大事だな。と実感している今日このごろである。
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■編集後記

 京都の街並みはいつ頃から形成されたのだろう?

 京都に限らず、日本には多くの原風景。それぞれの人の心の

 故郷があると思います。

 そんな風景を後世に伝えて行きたいと思うのは、そんな風景

 が少なくなってきているからに違いありません。

 私達が今できること。今しかできないこと。

 設計を通して、そんなことも考えねばと思っています。

 個々の力は知れていますが、いきなり全にはなれませんので。

 千里の道も一歩から。ローマは一日にしてならず。

 そんなこんなで、もう年末です。

 この一年で、何ができたのかを考えてみます。

コラム | by muranishi | comments(0)

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