■人生は「選択」の連続であると思います。
「楽な道」もあれば「イバラの道」もあります。
「花道」もあれば「裏街道」もあります。
「選択」は重要です。
でもその「選択権」は自分にあります。
何を選ぶか。何を捨てるか。
そんなこんなで、今の自分があるのだと思います。
そんなこんなで、今回のコラム。「取捨選択」。
設計者の視点でお送りします。
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■取捨選択
設計を進めて行く上で、お施主様の要望は絶対である。
要望が極端に少ない場合も稀にあることは、以前書いたとおり
である。が、普通は多い。それが普通。そしてその要望を満た
すカタチで設計は進められる。これもいたって普通の話しであ
る。
例えば10の要望があるとする。(普通はもっと多いが、話を
分かりやすくするために、便宜上10という数字にする)設計
者は時に悩みながら、時に楽しみながら一つづつクリアしてい
く。そして10の要望を満たしていく。
・・・果たして、プランや外観が出来上がっていく。そこには
要望が満たされた空間が出来上がっている。
そのはずである。
そこには「要望が満たされた空間が出来上がっている」はずで
ある。
さて、本当にそれで良いのか?本当にそれ「だけ」で良いのか?
という思いが頭をもたげる。
お施主様の要望を完璧にクリアした空間は本当にお施主様を満
足させることができるのか?という思い。
実はそこから本当の設計行為が始まる。のである。
取捨選択の始まりである。
例えば10の要望があるとする。その中で「これは!」と思え
る一つの要望に焦点を当てなおす。別にそれが二つでも三つで
も良いのだが、兎に角「キー」となる要望に焦点を当てなおす。
すると、一筋の明確な光が頭の中を照らし始める。10の要望
のうち、数点をクローズアップすると、非常に明快な空間に進
化し始める。
決して、10の内7や8を捨てるのではない。10の内の数点
がハッキリと空間化されることで、12や13の満足度を目指
すのである。
ここに設計者の存在価値・存在意義があるのだと思う。
お施主様が気付かなかった11番目の要望を引き出す。つまり、
お施主様の要望以上のものを産み出すことができるかどうかが、
大切なのだと思っている。これは、要望を並列に扱っている時
点では浮かび上がらない。設計者の視点から各要望にヒエラル
キーをつけ、何点かを特化することで、要望がより明確化して
くるのだと考えている。
そして時に10の要望のうち、数点は必要のないものに思えて
くる。ここからはお施主様の取捨選択が始まる。
要望の取捨選択。
そんなやり取りが空間を洗練していく。ように思う。
「10のご要望を満たしました」「ハイ、OK」では極端な話
し設計者は必要ないかもしれない。
これを読んで、「設計者に設計を頼むって面倒だな。」と思わ
れる方も居られるかもしれない。いや、きっと居られるだろう
と思う。
そう、残念ながらいたって面倒なのである。
なぜならそれは、一生暮らす空間だから。
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■編集後記
設計者を選ぶのはお施主様以外の誰でもありません。
また、設計者を選ばないという選択もあります。
出来上がった家を買う。とか。なんとか。
設計者を選択した時点から、家は「買う」ものではなく
「建てる」ものに変わります。
その選択一つで「住む」という同じ結果に対するアプローチの
呼び名が変わってきます。概念が変わってきます。
・・・摩訶不思議。
「今度家を買うんだよ」というセリフを聞くことがあります。
その時、とても違和感を覚えてしまいます。
「家は買うものではなくて、建てるものですよ」と頭の中で
反論している自分がいます。
そう、半ば職業病だと思っています。
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