空間工房 一級建築事務所

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10.04.02 Friday

ある建築家の言葉(8)

■前回までは少し長いコラムでした。

 なので今回はすごく短いコラムをお届けします。

 短いですが、思いは深い(と自分を擁護)と思っております。

 前置きも短く、短く。

 それではどうぞおたのしみください。
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■ある建築家の言葉(8)

 不定期シリーズでお送りする第8弾。

 ある建築家の言葉から少し。

 今までは日本人建築家の言葉からお送りしていたが、今回は外
 国人建築家の言葉から思うところを綴りたい。

 その建築家とは、レンゾ・ピアノ氏。名前だけ聞けば何か楽器
 のようであるが、楽器ではない。人である。

 日本で設計された有名な建築物は、なんと言っても関西国際空
 港。あの流線型の屋根/天井を持つ空港である。利用された方
 も多いと思う。

 あの流線型には理由がる。建築業界では広く知られている理由。
 単なるデザインではない。

 空港という特性上、どうしても空間が大きくなる。ということ
 は、空調の効き具合も悪くなる。必然的に空調の台数を増やす
 ことになるのだが、維持費も掛かるし、地球環境的にもあまり
 宜しくない。

 そこで空調効率を高めるために編み出されたカタチが、あの流
 線型の屋根/天井である。空調の吹き出し口から、より遠くま
 でその空気が広がるように、空気の流れをデザインした結果、
 あのカタチになったとされている。

 デザインには根拠がある。それは時に、機能を追及していった
 結果産み出される副産物でもある。「単に流線型にしました」
 では恐らく誰の理解も得られないことだが、「空調効率を考え
 た結果、流線型になりました」と言われれば、なるほどな~と
 思うし、説得力もあると感じている。

 それがデザイン要素を形成していれば、尚且つ美しければ、納
 得する人は大勢いるかと思う。

 さて、そんなピアノ氏。環境をデザインした建築物を手掛けら
 れることが多い。そして、そのどれもが今までにないカタチを
 成している。

 すごく前の、とある番組で語られていたことが記憶に残ってい
 る。

 ある人から「いつも面白そうなプロジェクトを手掛けられてい
 て羨ましい」と言われたそうである。確かに面白そうなプロジ
 ェクトをいくつも抱えているのは事実である。しかし、それに
 対してピアノ氏が返された答えは、こうである。

 「面白そうなプロジェクトを手掛けているのではないよ。手掛
 けるプロジェクトを面白くしているんだ。」

 目から鱗である。

 続けて、こう言われた。

 「私のところに依頼が来た時点では、どれも何の変哲もないプ
 ロジェクトなんだよ。それをいかに面白くしていくかが、建築
 家としての役割でもあると思うんだ。」

 目から魚である。

 何も知らない傍から見ていると、面白いプロジェクトばかり舞
 い込んできて羨ましいな。と思うのが普通である。

 しかし実情は違うのである。依頼があったプロジェクト、要望、
 制約などを乗越えて、魅力あるプロジェクトに変えていってい
 るのである。

 確かに、依頼する自治体なり法人の方が、いきなり魅力的な依
 頼が出来る位なら、建築家なんていらないかも知れない。最初
 は恐らくごく普通の依頼内容なのだと思う。それをそのままプ
 ログラムに沿って回答を出すのではなく、誰もが腑に落ちる根
 拠や背景を持って、魅力ある回答を出す。それが建築家である
 と、ピアノ氏は言っているのだと思う。

 この言葉を聴いたのが、いつだったか忘れた。忘れっぽい性格
 なので。独立前だったか、独立後だったかすらハッキリしない。

 時に、予算がないから。とか。ご要望とやりたいことが違うか
 ら。とか。法的制約が大きい地域だから。とか。何かと理由を
 つけては、自分を正当化しようとする自分がいる。

 しかし、その都度ピアノ氏の言葉を思い出している。

 最初から面白いプロジェクトなど、どんな大御所にだって舞い
 込むことはないのだ。と。ましてやその末席にいる私達になど、
 舞い込むことはない。であれば、頂いたご要望・示されたご予
 算・決められたルール/法規制の中で、魅力あるものに待って
 いくのは自分達でしかないのである。

 自分が魅力を感じない空間など、誰にも魅力を感じて貰うこと
 は出来ない。

 設計料という大金を託されて、依頼いただいたからには、それ
 に見合う、いやそれ以上の空間を提供しなければならないと思
 っている。それが設計者として最低守るべき道であると思って
 いる。

 恐らく誰しも、最初からビッグプロジェクトを任せられること
 はないと思う。小事を大事に積み上げた人が、ビッグプロジェ
 クトを手掛けるようになると信じたい。そして、建築に小事な
 どないことも認識しておきたい。全てが大事なのであるという
 ことを。

 「手掛けるプロジェクトを面白くしているんだよ。」

 いつの日か、私も言ってみたい言葉である。

 そのためには日々精進。であることは言うまでもない。
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■編集後記

 ピアノ氏。古くはフランスのポンピドゥー・センターから

 最近では、アメリカのカリフォルニア・アカデミー・サイエン

 スまで多くの建築を手掛けるイタリアの建築家です。

 そのどれもが、何か有機的で独特のフォルムを有しています。

 私も学生時代にポンピドゥー・センターを訪れました。

 その時の印象は「賑やか」。設備配管がメンテナンスを考慮

 して全て建物の外に出されている。そしてそれが彩りを添えて

 いる。という、建築的な賑やかさもありますが、それよりも

 その前の広場に人々が集まっているという賑やかさを感じま

 した。

 人が集まってくる建築というのは、なかなか出来そうで出来な

 いものだと思います。そういう意味でも、魅力ある建築を昔

 から手掛けられているのだと、思っています。

コラム | by muranishi | comments(0)

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