■京都には昔から「坪庭」のある家が多く存在します。
これは、「鰻の寝床」と称されるように、敷地が細長いことが
主な要因となっています。
道路に面した間口が狭く、奥行きが極端に長いために、建物の
中央部に光が入りにくいことから、中庭/坪庭を設けることで
自然光を内部にまで取組むという生活の知恵です。
そしてもう一つ、「表」の良く日の当たる道路や前庭と「裏」
のあまり日の当たらない中庭や坪庭との間に生じる気温差が
気圧差を生じさせることで、「風」の流れを生むという役割
も担っています。
そのため、暑い夏場には道路側の窓を開け放つ必要があること
から、防犯面を考慮した「縦格子」や「格子窓」が京町屋の顔
となっているのだと思います。
昔の街並みや町屋のデザインには「機能性」から滲み出る事象
が、その裏には隠されています。
というわけで、今回は「庭」の重要性を考えてみます。
どうぞ、おたのしみ下さい。
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■庭の重要性
一戸建て住宅の大きなメリットとして、「庭」の存在が挙げられる。
マンションでは通常、1階に住まない限りはいわゆる「庭」を保有
することはない。
「庭」と言っても色々ある。
本格的な日本庭園や英国庭園に始まり、中庭・坪庭・光庭・水庭等
など。その呼び名は様々。
余程の密集地でない限り。また100%の建蔽率が許された地域でない
限り、敷地には建物が建たない「余白」が存在する。
この余白こそが実は大切だと考える。
余白は「建物」の周りに出来る「隙間」と捉えがちだが、実は違う。
「隙間」はあくまでも「隙間」であり、施工上、足場を立てなけれ
ば建物が建たないとか、その程度の意味合いしか持たない。
しかし「余白」は建物に有効に作用する「外部空間」として、いわ
ば必要不可欠な存在。極論を言えば建物と一心同体の存在であると
思う。
どの場所に余白を確保するかで、建物の日当りや風通しがたちまち
変わってくる。
例えば密集した北向きの敷地で、建物を南側一杯に寄せて建てると、
日当りの良さは望めない。というか暗い。それは極めて悲惨な住環
境になってしまう。
でも少し、坪庭程度でも余白が取れていれば環境は一変する。
「坪庭」は光や風を供給してくれる存在となる。
土地の値段がバブル期よりは大幅に下がった昨今と言えども、依然
として土地価格は高い。特に都市部になるほど手が出ない高さで困
惑する。
そんな高い土地に家を建てるなら、無駄なく目一杯建物を建てたい
と思うのが心情だと思う。それは否めない。
でも、一戸建ての住宅が有する大きなメリットの一つは、「庭」な
のだと思う。そしてそのメリットを駆使することで、豊かな住環境
が確保出来ると思う。
如何に「余白」がデザインできるか。それはつまり、如何に外部環
境との繋がりを持たせることが出来るかと言い換えられる。
平面的な繋がりに留まらず、断面的な繋がりへと展開していくこと
で、「余白」の可能性は高まると考える。
そしてそこに、少しでも「緑」があれば、街並みも潤うような気が
する。
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■編集後記
日本人だと「庭」=「日本庭園」。木が生い茂る。木の手入れが
面倒。庭はいらない。・・・という思考に陥る方も居られるかも
しれません。
「庭」には上述のように「眺める庭」だけではなく、「テラス」
などのように「使える庭」も存在します。
タイル貼りやウッドデッキ。手入れの少ない玉砂利の庭。など
「庭」を「使える余白」と捉え直すことで、内部環境も大きく
変わってきます。
「外部を内部に取込む」「内外の境界をなくす・曖昧にする」と
いうことに着目しながら住宅を設計することも、敷地の可能性を
拡げる一助になるものと考えています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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