空間工房 一級建築事務所

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13.10.04 Friday

景観が先か、建築が先か

■最近面白かった話。100円ショップでクラシックのCDを買

ってきた妻。楽しみにして聴いてみたら、「所々弾き間違いが

あって、こけそうになった」とのこと。その話を聞いた私がこ

けそうになりました。恐るべし100円ショップ。まあ、安い

のには理由があるのですね。誰が弾いて、誰が製品にしようと

思ったのかは不明ですが、売れるものですね。それ以降、10

0円ショップでは相当吟味して買うようになった妻。100円

ショップで買うこと自体を吟味した方が良いと思うのですが、

楽しそうなのでなかなか言えません。でも世の中には、なかなか

言えないことをズバッと言える方も居られます。そんな内容も含

んだ今回のコラム。どうぞおたのしみください。

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■景観が先か、建築が先か

物事には出来上がっていく順序というものがある。

まちなみも無計画で進んだ結果出来上がってしまったものと、
ある程度の計画のもとに進められて出来上がったものには違い
が出る。

でも、ある程度の計画(既成)の枠を取り払うのは、常にその
枠を作った側であったりする。

そこに大きな矛盾を抱えているのは誰の目にも明らかなのだが、
なぜか誰も止められない。

東京五輪が決定する随分前から新国立競技場の計画が進められ
ている。国際コンペにより設計者が決定した。既に基本設計に
入りつつある段階。だが、ここに来て大御所建築家から問題提
議があがった。文字数にして1万文字。400字詰めの原稿で
25枚に及ぶ問題提議文である。

要旨は簡潔。規模が大きすぎる。という論旨である。(と私は
勝手に解釈している。)30年ほど前に、隣接する敷地で東京
体育館の設計を手がけた方なので、そのスケール感の把握には
間違いないと思うし、実際の敷地写真に落とし込まれた今回の
コンペ案ボリュームを見ると、誰もが抱く印象である。「大き
すぎひん?」と。

デザインの善し悪しには触れられていない。あくまで、その大
きさと今後の維持管理の大変さなど、そもそものコンペ条件が
おかしいのでは?という論旨である。

ある資料によると、新国立競技場の計画敷地である代々木公園
に建てることが出来る建物の高さ制限は15m。今回はその制
限を75mにまで引き上げてのコンペだったそうである。実に
5倍の引き上げ。

制限を掛けてきたのも東京都。制限の枠を取り払ったのも東京
都。なのである。

ある理由があって守ってきた土地や景観を、守らなくても良く
なったから制限の枠を取り払った。のであれば、何の問題もな
い。でも恐らくそうではないと思うのである。

背後にどのような原理が潜んでいるのか。
その原理は未来に責任を持てるものなのか。

設計者はコンペのプログラムに文句を付けることはできない。
できることと言えば、そのコンペに参加しないという選択肢の
みである。このコンペの参加資格は、世界の名だたる建築賞を
受賞した者若しくは相当の競技場を設計した者、とされていた。
日本人でこの参加資格を有する人物は恐らく5名程度である。
参加資格がなくとも、設計者であれば誰もが参加したいと思う
コンペであった。

そしてこの問題提議をした建築家は、参加資格があったが参加
を見送った。不参加の理由は、コンペのプログラムに問題があ
る。と思ったからだそうである。

建築家の名前は槙文彦氏。

こんな建築家が景観を見据えた建築を造り出すのだと思った。

おこがましくて噴飯ものだが、私も未来に責任を持って建築を
つくっていきたい。景観と建築は表裏一体のものなのだ。

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■編集後記

京都でも京都会館の改修問題が少し前に話題になりました。今

ではすっかり「第一ホール」部分は解体されて、工事が進んで

おります。これまた平安神宮に隣接する地区ですので、景観的

な制限もありました。高さ制限もありましたが、これまた「特

例」にて高さ制限を越えての改修となっています。所有者は京

都市。目指すのは座席数2000席。京都府内にはない規模の

ものを創りたかったらしいです。目指す方向が間違っているよ

うな・・。

出来上がった暁には、弾き間違えないクラシックを聴きに行き

たいものです。

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明治神宮横の新国立競技場。
平安神宮横の京都会館。
神宮横が熱い!
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コラム | by muranishi | comments(0)

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