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13.01.22 Tuesday

その人が最後に持ち出したもの

■今までで最も驚いた偶然は何ですか?

街なかでバッタリ人に出会う。などといったことは良くある

偶然かもしれません。私が今までで最も驚いた偶然は、全く

繋がりのない別々の依頼者(お施主様)が、たまたま隣同士

の方だったということ。一人は知人の紹介。もうお一人は

当ホームページをご覧になってご連絡いただいた方。

残念ながら知人の紹介の方のほうは実現が叶いませんでした

が、もし実現していたら面白いことになっていたなと今でも

思っております。

さて、今回はそんな偶然にまつまるお話し。

それではどうぞ、おたのしみください。
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■その人が最後に持ち出したもの

単純に京町家が好きである。

それは京町家に生まれ育った記憶がそうさせているのかもしれ
ない。それほどに、子供時代の住空間は大切なのだと思う。

新聞にはよく、住宅や不動産関係の折込チラシが入っている。
先日もそんなチラシの中に京町家のオープンハウスが宣伝され
ていたので、冷やかしで行ってきた。

一つはあまり手を入れてない、建築当初の面影を色濃く残すも
の。なかなか良かった。もう一つは当初の面影が皆無のもの。
全く良くなかった。勿論個人の価値観として。

全く良くなかった方の不動産屋さんに、他にもオープンハウス
はないものか尋ねてみた。すると某ホテルの南側に最近売り物
件が出たとのこと。

某ホテルと言えば、当工房から目と鼻の先である。良く通る道
でもある。気になったので行ってみた。

お?!これは日頃から「良い町家だな~」と目にしていた町家
ではないか!!表には「売家」の看板が。。その隣も立派な佇
まいで良い感じの町家。売りに出ている方は「ザ・町家」とで
も言うべき外観。これが売られて壊されると、また風景が一変
してしまうな~。と思ってしまった。売値1億。恐らく土地だ
けの値段しかついていないとは思う。町家は築100年近くな
ので不動産価値はゼロだろう。文化的価値や景観的価値はある
と思うのだけれども。

1億円出して町家を守る酔狂な人がいるとも思えない。が、世
の中は分からない。なので、どうなるか見届けたい。

さて、そんなこんなで事務所に戻ってしばらくすると玄関のチ
ャイムが鳴った。

出てみると、お年を召した紳士と30代前半の男性二人組み。

話を聞くと、老紳士の方が町家の良い活用方法を模索中だとか。
以前、当工房の前を通られた際に、置いてあった「町家リノベ
ーション」の設計事例チラシを気に入っていただけて、本日改
めて尋ねて来られたとのこと。

ありがたい。

フト若い方が「どこかで会いませんでしたっけ?」とのクエス
チョン。そういえば、こちらもどこかで会ったような気はして
いた。

記憶を辿ると、とある建築イベントで来られていた方と判明。
京都の構成要素について意見を交わした方である。2年ほど前
に。

奇遇である。結構お互いビックリした。

それを聞いて、老紳士の方も驚かれていたのだが、数分後私が
再び驚くことになる。

折角だから活用提案して欲しい町家を見ませんか?ということ
になった。勿論異論はない。近くにあるそうである。

道すがら、某ホテル前にある当工房設計のリノベ店舗を紹介し
ながら歩く。老紳士曰く、以前からその店舗も気に入られてい
て誰が設計したのか知りたかったそうである。鼻がふくらむ。

「そういえば、この近くで売りに出されている町家があるんで
すよ」などと先ほど知ったばかりの情報を披露する。

「どこですか?」「あそこです。」「え?どこ?」「あ、あの
町家です。」「ええ~っ??!!見て欲しいのはその隣なんで
すよ!」・・・「ええ~っ!!」。ハイ。ビックリしました。
今日はきっと偶然の出来事に驚く日だな。

一通り中を拝見させて頂いた。まさか「いいな~。」と思って
いた町家に入れるとは思ってもいなかった。人生とは不思議な
ものである。

そして出てくると、隣の売家である「ザ・町家」からもどなた
か出て来られた。「売家」と看板が出たのはきっと昨日今日の
はなしだと思う。まだ住まわれていたのだろうか。見た感じ9
0歳近くのご婦人である。娘さんと思しき方に付き添われて、
覚束ない足取りで出てこられる。

一通り内部を見せていただいている間に老紳士が仰っていた。
「そういえばお隣、流石に高齢の一人暮らしは危ないというこ
とで、どうするか悩んだはったわ。売ることにしはったんやな
~。さみしなるな~。」

そうか、最後の荷物を取りに来られたのか。

ご婦人の手元には、嫁入り道具と思われる、使い古されたお針
箱が大事に持たれていた。家を持っていくことは出来ないけれ
ど、家と共に長い時間を一緒に過ごしてきたお針箱だけは持っ
ていくぞ。という決意を、その握り締められた手に感じた。

「本当は、家も連れていきたいんやけどね・・。」という悲哀
と共に。

きっとその人が最後に持ち出したものは、お針箱。そしてこの
町家に詰め込まれた溢れんばかりの想い出たちなのだと思う。

僕たちに出来ることはないだろうか?

深く自分に問いかけた一日でもあった。
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■編集後記

町家。寿命なら建て替えればいいんだと思うんです。それが

自然の摂理なのですから。無理に延命措置を施す必要はないと

思うんです。永遠に生き続けることなんて不自然ですから。

でも、寿命じゃない町家は残すべきだと思うんです。引き継ぐ

人が居るのなら。引き継ぎたい人が居るのなら。

住宅取得時の税金特例を町家取得者にも適用していると思い

ますが、優遇幅を大きくするというのはどうでしょう?

別荘でも税金優遇措置を講じるとか、法人税優遇措置を講じる

とか。そうすれば大型の町家も残る気がするのですが。

売却されてミニ開発されて町の風景が一変するという現象が

少しは避けられると思うのですが。。
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風景の核を壊さない。
壊す仕組みを壊したい。

コラム | by muranishi | comments(2)

コメント / トラックバック2件

  1. ルームマーケット平野 より:

    まったくの同感、賛成ですね。どうして新築を買うと優遇税制があるのに、町家減税はないのでしょうか。相続税も町家控除なるものがあっても良いと思います。

  2. muranishi より:

    コメントありがとうございます。
    税金の取り方、免除の仕方一つで随分街並みも変わる気がします。

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